写真後列左から:筒井浩司さん・澤田明久さん・森岡拓実さん
写真前列左から:池添篤さん・大石淳一さん・山中晴介さん・小笠原啓介さん
土佐町のあちこちに置かれたベンチに、もう座っていただいたでしょうか?
もし今度ベンチに座ったら、ベンチの縁や角を触ってみてください。全くチクチクしませんし、とても滑らかで気持ちよく座ることができます。
なぜでしょう?
それは、鉋で丁寧に面取りがしてあるからです。
ベンチの天板と脚の面取りをしてくれたのは、大工である森岡拓実さん。
面取りするのは大変な作業であったと想像しますが、「座る人にとって、その方が心地いいから」とさらりと話してくれました。
使う人にとって良いものなのか?それが一番大事。
常に作るものの向こうにいる人のことを考え、それに基づいた仕事をする。筋の通った姿に心打たれました。
森岡さんが大工になったのは、現在88歳で現役の大工であるおじいさんの影響がとても大きかったそうです。小学生の頃から物づくりが好きで大工になりたかった拓実さんは、おじいさんの元で10年ほど修行した後に別のところでも修行し、今は左官の仕事も勉強しているとのこと。大工とは異なる仕事をすることで、今まで見えていたものが全く違うように見えるようになったそうです。
大工でも左官でも何でもやりたい。ベンチの仕事で初めて建具屋さんの道具を使ったけど、建具屋さんと大工の使う道具も技術も全然違う。木の使い方も大工の使い方も、晴介さんは全部わかっちゅう。負けたくない
森岡さんは「技術者になってものづくりができるのがよかった。自分に合っていた」とも話します。色々な技術を身に付けることで自分のできることが増え、ものの見方も仕事も広がっていく。
今回のベンチみたいに、もっとみんなで一緒の仕事したら面白いよね。なかなかないよね、こんな機会。もっとあったらいいのにね。そのそれぞれのいろんなものが出てくるもんね
町に置いてあるベンチを見たら、自分が作ったんやと思う。“自分がやった”と自分の中に残る
ものづくりは自分だけで完結するのではなく、作ったものが次の誰かとつながるものとして世の中に現れます。このベンチはこれからどんな風に繋がっていくのでしょう。
7人の大工さんの中には20代と、30代になったばかりの大工さんがいました。
お父さんが大工だったという澤田明久さんは大工になって12年。大工になったのは、父親の姿を見ていたことが大きかったのではないかと言います。18歳で工務店に入り、その後大工として独立、一人で仕事を請け負い、現場に立つようになりました。澤田さんが自分の腕で食べていけると思ったのは、仕事を始めてから5年ほど経ってからだったそうです。
大工の仕事は好き。基本的に自由だけど、もちろん工期は守らないといけないし責任がある
工務店で働くことと独立して働くことの一番の違いは、責任だと言います。基本的に一人でやる現場が多いので、任された現場はいつも自分次第です。
澤田さんは「自分だけの責任」と何度も話しました。今の仕事が次の仕事につながる。逆を言えば、今の仕事次第で次の仕事がなくなるかもしれない。一人で立つことのその重圧たるやその人自身にしかわからないものでしょう。腕一本で仕事の責任をひとつずつ果たしていくことでしか、自分一人で立つ軸は作れません。
「ベンチの製作はとても楽しかった。みんなで集まって仕事するのは初めてで、やれてよかった」と澤田さんは話してくれました。
『ベンチは楽しかった』
これは澤田さんをはじめベンチを製作してくれた職人さんが皆、口を揃えて言ってくれたこの言葉は、職人の皆さんが日々一人で立っているからこその言葉だったのだと後から気付きました。
7人の職人さんの中での一番の若手、筒井浩司さんもお父さんが大工さんだったとのこと。
高知市で修行を始めてから2年間、ずっとやめたいと思っていたそうです。建築に使う材料の名前を覚えるのもしんどく、間違えたら親方に怒られる。修行を3年半続けた後に土佐町に帰ってきて、今は土佐町地蔵寺の工務店でお父さんと共に仕事をしています。
土佐町へ帰ってきてから、現場で施主さんが休憩になったらお菓子やお茶を構えてくれたり、その日の仕事を終えて帰る時には“お疲れさま”と言ってくれることに救われるような思いがしたそうです。
“ありがとう” “お疲れ様です” と言われることは職人冥利に尽きる。そのために仕事をしているなと思う。僕ら職人は金額以上の仕事、プラスアルファのことをしたいんです
このお話を聞いたのは、ベンチの製作を終えた飲み会の席でした。
先輩たちがこうやって話してくれることがとても嬉しい、お酒を飲んでいうてくれることが本音だと思う。先輩の言うことがみんな身になる。
地に足をつけながら仕事を重ねている若い職人さんがこの町にいることが、何だかとても誇らしく思えました。
(「土佐町ベンチプロジェクト⑧職人さんの話」に続く)