きびから人形
皆さん、「きび」って知っていますか?
ここ高知では「きび」はよく食べられている作物です。「きび」の風貌はとうもろこしにそっくりで、手のひらに乗るサイズ。実はムチムチっとしていて、甘くありませんが噛めば噛むほど味が出る作物です。
昔、このきびの皮を使って女の子達が人形を作り、遊んでいたそうです。「きびから人形」と呼ばれています。
2021年11月、土佐町の青木幹勇記念館で「きびから人形」を作る教室が開催されました。教えてくれたのは、土佐町の山中まゆみさんと千頭三利子さん。幼馴染のおふたりは、幼い頃、おばあちゃん達が「きびから人形」を作って楽しんでいたのをよく覚えていたそう。昔のことを思い出しながら、その作り方を再現しました。
種をまき、きびを育てる
材料はきびの皮。人形を作るためには、たくさんの皮が必要です。青木幹勇記念館の田岡三代さんは、この人形作り教室開催のため、一年前から畑を持っている人にきびの種を配り「きびを育てて、皮を持ってきてね」と頼んでいました。種を受け取った人は、今年の春に種をまき、きびを育てました。夏、三代さんは育ててくれた人から皮だけを受け取って、記念館内に並べて乾かしました。記念館はいっとき、きびの皮乾燥室に。その皮が、今回の人形を作る材料になっています。準備もまさに1年越し。
材料から作ってしまおうというアイディアが面白い!それを実現できるのは、快く協力してくれる人たちの存在と、たくさんの人が日常的に畑で野菜を育てている環境があるからこそ。土佐町の人たちと自然環境が作った教室です。
まずは人形の顔作りから。丸めたティッシュに楊枝をさし、きびの皮で包みます。そして、細く切った皮で、きゅっと結びます。
顔を作ったら、次は服のえりになる部分を作ります。バランスよく、格好良く作るのはなかなか難しい。先生のお一人、千頭さんが手取り足取り教えてくれました。
次はスカート部分。ボンドで貼り合わせた3枚のきびの皮を腰部分に結びつけます。この後さらに「ペチコート」を重ねます。
まるで、お姫様の舞踏会のドレスのよう!昔はきっと、こういった服装が女の子たちの憧れだったのでしょう。
髪の毛は、きびの「ひげ」で作ります。このひげも、収穫してから丁寧に乾燥、今日のこの日の出番を待っていました。
たくさんの人形ができました!インド綿のエプロンを着た人形、髪の毛も帽子の形もさまざまです。人形が持っている小さなブーケは、きびの皮とドライフラワーでできています。まゆみさんが、庭や道端で見つけたヒメラッキョウ、センニチコウ、スターチスなどの草花を乾燥させ、参加者が選べるようにしてくれていました。
「かわいいわね〜!」と言いながら、参加者の皆さんによる撮影大会が始まりました!人形ひとつひとつ、作った人のお人柄が現れているようでした。
参加者の皆さんで記念撮影。後列の眼鏡をかけている方が青木幹勇記念館の田岡三代さん。そのお隣が教えてくれた千頭三利子と山中まゆみさんです。皆さんとても嬉しそう。参加者の方たちは、両手のひらでそっと包み込むように、人形を持ち帰っていました。
帰り際、先生のお一人、山中まゆみさんが話してくれました。
「多くの種は、飛び散ったり人の洋服にくっついたりして増えるけれど、きびやとうもろこしは人間が皮を剥き、種を蒔かないと育たない植物。人との関わりの中にある植物なんだなあと思います。きびの皮で作った人形はどれも可愛らしくて、それはなぜだろう?と思って。きっと、きびやとうもろこしが持っているその背景も関係しているのではないかなって」
土佐町の人との関わりの中でできた人形たち。きっとそれぞれの方のおうちで、ちょっと特別な顔をして微笑んでいることでしょう。