笹のいえに約11ヶ月間滞在していた子が、3月のある日に笹を卒業した。
満月(みつき)さんは16歳。あだ名は「くんくん」。まだ赤ちゃんのとき、名前を呼ばれると自分で「みつき」と言ってるつもりで「くぅんくぅん」と返事したので、以来こう呼ばれているとか。
土佐町に移住してきた知り合い家族を訪ねてやって来て、笹のいえにも泊まってくれたことからご縁がはじまった。
ここの生活を気に入ってくれた彼女は、中学を卒業するころ手紙をくれた。そこには、笹で一年間暮らしたいと手書きで丁寧に書いてあった。その字から彼女の想いが溢れている気がして、心がじんわりと温かくなったのを覚えてる。
それまでも何度か笹に遊びに来てくれたので、子どもたちは彼女に懐いていたし、田畑の経験もある。料理上手だし、うちら的には大歓迎。が、ひとつ考えなくてはいけないことがあった。
彼女は、化学物質過敏症なのだ。
ケミカルなものに身体が反応して、気分や悪くなったり、体調不良になったりする。
例えば、化学的な建材が使われているは建物には入ることができない。香料や除菌剤入り洗剤や柔軟剤で洗濯された服を着た人には近づけないなど。
繁盛はしていないけれど、いちおう「宿泊業」な笹のいえにはいろんな人の出入りがある。彼女の苦手な香料を使用した服を着た人もやって来るだろう。お客さんに「その服ではうちに泊まれません」なんて宿はない。そもそも、化学物質過敏症のことを全く知らなかった僕は、一緒に暮らせるのかどうかもイメージできなかった。
それでも、ここで暮らしてみたいという彼女の強い意志を受けて、僕らも「どうなるかわからないけれど、これもご縁だし、とりあえずやってみよう」と決めた。
一緒に住みはじめてみると、当たり前だけど、普通の子と変わらない。いや、それ以上だった。薪の扱いには慣れてるし、家事もこなし、子どもの相手もドンとこい。畑や田んぼの作業では効率的に動き、笹の暮らしにピッタリだった。
(後編へつづく)