(「早春の野草 その1」はこちら)
耕作前の田んぼや畑には、史前帰化植物(しぜんきかしょくぶつ)と呼ばれる植物が多く花をつけていました。
紅紫色のホトケノザ。真っ白な小さな花を散りばめたタネツケバナとナズナ、そしてコハコベ。これらは有史以前に稲や麦などの栽培植物とともに日本にもたらされた植物で、いわゆる帰化植物とは区別されており、一般的には注釈付きの在来種として取り扱われます。
なお有史というのは歴史が文字によって記述されているという意味で、日本の場合おおむね6世紀の仏教伝来の頃に始まると言われます。
ホトケノザ(仏の座)
葉の形が、仏様が座る台座のように見えるというのが名前の由来です。早春の花を代表するものの一つで、少し遅れて開花するヒメオドリコソウと共に耕作が放棄された田畑などでは一面を紅紫色に埋め尽くしてしまうほど大繁殖します。
植物は風や虫や鳥や獣などを利用して勢力の拡大を図りますが、ホトケノザやヒメオドリコソウはアリに種子を散布してもらう植物です。アリは種子を巣に運び、誘引する物質だけ食べて種子を外に捨てます。因みにみんなに親しまれているスミレもアリ散布植物です。
なお春の七草の「ホトケノザ」は本種のことではなく、4~5月に水田の畦などで黄色い小さな花を咲かせるキク科のコオニタビラコのことです。
タネツケバナ(種浸け花)
クレソンの小型みたいな田畑や水辺に群生する雑草です。イネの種もみを水に浸け、苗代の準備をする頃に咲くということで付いた名前だそうです。
ロゼット葉(※ろぜっとよう)はナズナと間違えられる例もあるようですが、若芽は普通に食べられます。
※ロゼット葉…地面へ放射状にぺたりと生えている葉
ナズナ(薺)
ペンペングサやシャミセングサという別名がよく知られています。果実の形が三味線の撥(ばち)に似ることから付いた名前です。耳元で振るとシャラシャラという音を楽しめます。
日本では昔から冬季の貴重な野菜として人々に利用されており、七草粥には欠かせない食材です。
根の部分を生で食べてみるとゴボウを甘くしたような味です。因みに今年は雑煮の具にして食べてみましたが、ちょっとした感動を覚える食材です。何の違和感もなく美味しくいただけます。
コハコベ(小繁縷)
冬のあいだも緑色の葉を地面に広げています。小さなたまご型の葉を対生(※たいせい)させ、春から秋にかけて白い花を次々と咲かせます。花びらは5枚なのですが、各花びらが基部近くまで深く2裂して、まるで10枚のように見えます。
春の七草の一つで、古い呼び名はハコベラです。ハコベの品種は多くあり、七草として親しまれるのはコハコベのようですが、茎が緑色のミドリハコベや葉っぱが大きいウシハコベでも間違いありません。茹でてから食べた方が良い食材です。
※対生:葉が2枚向き合って付くこと。葉が互い違いに付くのは互生と言う。