土佐町小学校の5年生は、1年間を通して「山の学習」を行います。
実際に町内の山へ行き、林業に従事している人に話を聞いたり、10月には間伐体験を行います。この時に伐採した木は現在乾燥中。6年生になった時、土佐町で生まれた赤ちゃんのおもちゃを制作するために使います。
2025年1月21日、5年生は「宝箱」を作りました。
高知産のヒノキを使ったものづくり。先生は土佐町の宅間宏治さん。町内で「Forest」という木工工房を営んでおり、5年ほど前から土佐町小学校の子どもたちに、木を使ったものづくりを教えてくださっています。
「僕は肺がんが見つかって、今治療中です。しんどいので、今日は土佐町の大工さんたちに手伝ってもらいながらやりたいと思います」
宅間さんのこの言葉から、授業は始まりました。
宝箱を作る
最初に、事前にカットされた板と部品が一人ひとりに配られました。
子どもたちが組み立てやすいよう、宅間さんは各板にほぞをつけています。ほぞの形が揃っていないとうまく組み立てられないので、正確にほぞを作る必要があるそうで、「これがなかなかめんどくさいのよ」とのこと。
まずはほぞを組み合わせ、箱の部分と蓋の部分を作っていきます。ほぞにボンドを付け、一面ずつ組み立てていきます。少しずつできていく、箱の形。最終的に箱と蓋を組み立てられたら、蝶番で開け閉めができるようにします。ちなみに、蝶番は形がチョウチョみたいだからその名がついたそうです。
さあ、どうする?
ボンドを付け、組んだところにさらにビスを入れて行きます。
一人の男の子が、宅間さんに何やら相談していました。ビスの頭が折れ、ネジが板の中に入り込んでしまったとのこと。
「どうしたらいいですか?」
「さあ〜、どうしようかねえ」
と宅間さん。
顔を突き合わせるように、入り込んでしまったビスをじっと見る二人。しばらくその様子が続きました。そして長い沈黙を破るように、男の子が一言、「もうやめますか?」
宅間さんは我に帰ったように顔を上げ、「あきらめたら終わり。さあどうしよう、って考える。それが木工の面白いところ」
イタズラ坊主のような、生き生きとした表情でした。
宅間さんは手を動かし始めました。
手元の板の切れ端を小さく切り、ビス穴のサイズに合うか確認。
少し大きすぎたので、さらに小さく切る。
サイズはこれくらいでOK。
その板をさらに削ってみる。
ビス穴に入る大きさになるか?
うん、これでOK。
それをビス穴に埋め込み、さらに木クズも加えてみる。
お、これでいけるんじゃないか?
指でぎゅ、ぎゅっと抑え込む。
おお!穴が空いてしまったところが、見事もう一度平らに!
少しずらした場所へ、もう一度ネジを回し入れる。
さあ、今度はうまくいくか…。
あ、うまく入った!
やった!!
男の子は、宅間さんの顔と宝箱を交互に見ながら、宅間さんの手元をじっと見守っていました。ネジが入った後、「おお〜!」と一気に二人は笑顔に。
「ありがとうございます!」
そう言って飛び跳ねるように、男の子は自分の席へ戻っていきました。
失敗しても、修復できる。失敗しても、もう一度。
途中で投げ出さない。何とかする。あきらめない。
ビス穴の修復は、願いにも似た、試行錯誤の積み重ねでした。
宅間さんはずっと、この姿勢でものづくりをしてきたのです。
担任の磯﨑晃(ひかる)先生が話してくれました。「土佐町小学校の子どもたちは、一人一台パソコンを持っていることもあり、分からないことがあれば、子どもたちはすぐに “調べていいですか?”と聞いてきます。調べることはもちろん大切ですが、調べる前に、一度立ち止まらせてあげること、自分で考えることを大切にしてあげたいと思っています」
自分で体を動かして考える。その経験が本当に大切だと思う、と。
誰かが出した答えを、すぐに自分の正解にしない。本当にこれでいいのかな?と考え、実際に試してみる。さまざまな情報が溢れる今、こういった姿勢は、これからを生きていく子どもたちにとってとても大切なことだと思えます。
完成した宝箱を手に、何度も蓋の開け閉めをしてみたり。持ち上げてみたり、とても嬉しそうな子どもたち。
中に何を入れたいか、聞いてみました。
「手紙を入れようかな」「不思議の国のアリスのハガキを入れたい」「まだ決めてないけど、自分の大事なものを入れたいな」
高知県産の木材を使ったものづくり。
なぜ、宅間さんは子どもたちと「宝箱」を作ろうと思ったのでしょう?
「僕が好きだから。楽(たの)しゅうないとね」
宅間さんは、にやりと笑ってそう言いました。
あなたの名前
最後に、宅間さんからプレゼントが。子どもたちそれぞれの名前が入った木のキーホルダーでした。
「宝箱につけてごらん」
自分の、自分で作った宝箱。
子どもたちの誇らしげな、嬉しそうな顔。宅間さんも大工さんも先生も、みんなが笑顔でした。
「こういった経験ができるのも、土佐町に山があり、木を切る人がいて、加工する人がいて、ものづくりをしている人がいるからこそ。この環境はどこにでもあるものじゃない。こういった環境があるから、子どもたちも体験ができる。素晴らしいことだと思います」
磯﨑先生はそう話してくれました。
土佐町で日々目にする山。山の一本一本の木の向こうに、木を育てる人や切る人がいる。製材した木で、新たなものを作る人がいる。その一連のつながりが見える環境は、都会ではなかなか手に入りません。
ものを手にした時、これはどこから来たのか?誰が作っているのか?そのつながりが見えるか否か。それは、世界の見え方を変えることである、と強く思います。
「体調が万全でないので、これが最後の授業になると思います。宝箱、大事に使ってくださいね」
宅間さんはそう話し、手を振りながら教室を後にしました。
子どもたちはきっと、宝箱の蓋を開けるたび作った日のことを思い出すでしょう。
大事なもの、ワクワクするもの。これから出会う大切なもの。自分の宝物をたくさん見つけてほしい。子どもたちと「宝箱」を作ろうと思った宅間さんの思いが、伝わってくるようでした。
宅間さんの1日も早いご回復をお祈りしています。

左から 植田潤一さん, 小笠原啓介さん, 山中晴介さん, 宅間宏治さん