南弥生さん
開催日当日には、正文さんの奥さまである南弥生さんが、正文さんとのエピソードを話してくれました。(当初、弥生さんのお話は当日のみの予定でしたが、滞在中、映画上映後に毎回話をしてくれました。)
「映画を見ると、正文さんは立派な人だったんだなと思われてしまうんやけど、正文さんはいたずらっ子で、優しくて、努力家で、好奇心旺盛な少年みたいな人やったんです。人が好きで、人と話すことが好きで、楽しい場を作る人でした。私は彼と一緒にいることが本当に楽しかったんです」
南正文さんと結婚後、常に正文さんの手となり、心と身体の支えとなって、生涯を共に歩んできた弥生さんが話すエピソードの数々は、笑いと愛情に満ちたものでした。
正文さんの「背もたれ」
正文さんは、両腕を失った際の輸血により肝硬変を患い、晩年の約10年間は体調が良くなかったそうです。一体いつまで生きられるのか。お医者さんに相談しながら薬を調整し、それまで以上に活動的に、色々なところに行って色々な人に会って楽しんでいたそうです。
ヨーロッパにスケッチ旅行へ行った時のこと。ポルトガルのポルトという街で、ある建物の窓に見えたピンク色のパラソルに目が釘付けになった正文さん。弥生さんは、座り込んで描き始めた正文さんの背中合わせに座り「私は彼の背もたれになっていた」。だから私は、正文さんが見ている風景の真逆をずっと見てたのよ〜と、それはそれは楽しそうに話してくれました。
「楽しく明るく元気に。病院に行ってもどこへ行っても二人で笑ってた。吐血しようが、病室から笑い声が聞こえてた。どうせなら笑わな仕方ないので。笑いって周りにすごい影響を与えるんですよ。私たちが幸せだったら皆にお裾分けできる。そんなことの繰り返しだった」。
検査して出てきた肝硬変の数値によって、気持ちが上がったり下がったりすることも多かったそうです。検査の結果が良くなくて落ち込む正文さんの前で、弥生さんがふざけて踊る。正文さんが思わず笑ってしまうと「ほら、免疫があがったやろ〜」と弥生さん。正文さんはそんな弥生さんの存在にどんなに救われていたことでしょう。
こんなこともあった、あんなこともあった。尽きることのない思い出を語る弥生さんのそばに、正文さんが笑って寄り添っているような気がしました。