2025年9月

くだらな土佐弁辞典

ちっくと

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ちっくと

【副詞】ちょっと

 

例文:ちっくとこらえてや。

意味:ちょっと我慢してください。

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 事件に対する保護者らの反応を知った僕は、ホッと胸をなでおろした。一人は、そもそもUSBが無くなったことがなんでそんな大ごとになっているのか、意味がわからないという様子だった。「うちの子の成績見たいんだったら見せちゃるき!」と言い、もう一人は、「なんで学校は、メディアに出す前に俺たちに言ってくれんかったろうね。言ってくれたら、親たちに了解とってこの件はなかったことにしたのに」と言った。

 彼らによれば、保護者説明会も特に問題なく終わったそうだ。会の前半は、保護者からもっともな批判もちらほら出た。今後は気をつけて欲しい、と先生本人に注意を促す声もたしかにあった。学校の個人情報保護に関する管理体制を問う指摘や、あくまでも一教員による不祥事と位置付けて他人事のような顔をしている校長に腹を立てる親もいた。しかし、しだいに問題の背景にある教員の多忙化を指摘する親や、気にせんでいいと言う親、なかには先生だって一生懸命やってくれているのにかわいそう、と涙ながらに訴える親までいた。

 その涙を見て、自分も自然と涙があふれてきた、とA先生は当時を振り返る。事件が起こった5月の連休明けといえば、A先生が土佐町小に着任してまだ1ヶ月ちょっと。

 

まだ信頼も勝ち得ていないはずなのに、何でこの人は僕のために涙を流してくれるんだろう?同じ高知県でも、より都会的な前任校でのできごとだったら、クビになっていてもおかしくないだろう。こういう関係ってあるんだな。

A先生は、土佐町における保護者と教員の関係に驚くと同時に、深く感動した。 残りの10ヶ月、子どもへの愛情をとおして、この親たちに恩返ししようと心に誓った。

 その後、A先生が処分されないように署名運動をしようとの動きもあったが、結局は彼の責任を追及する声がどこからも上がらなかったため、教育長からの叱咤激励という異例の措置で、この件は幕を閉じた。1ヶ月後に開かれた土佐町議会でもこの問題が取り上げられたが、「この問題の背景には教員の多忙化があるわけで、それに対して町としてどうやって取り組んでいくのか」、という論点で議論は進められた。

 

数ヶ月後、問題のUSBは、A先生の冬物のズボンのポケットから出てきた。

 

 テレビ報道の翌朝の子どもたちの様子を、A先生が教えてくれた。とくに女子生徒などは、この先生は何を言うんだろうか、とどこかソワソワしていたそうだ。そんななか、一人の男の子が、先生が傷付かないようにみんなを笑わせた。

 

「先生、ニュースにのって有名人やんか!」

 

(雑誌『教育』2018年12月号より再掲載)

(おわり)

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土佐町ポストカードプロジェクト

2025 Aug. 安吉

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緑のトンネルのような道。

場所は安吉(やすよし)、とさちょうものがたりにも度々出てくる高峯神社を擁する地域です。

高峯神社の正門で停まらずに通り過ぎ、林道をしばらく登っていくと高峯神社の本殿近くに出ます。

高峯神社の参道は登山道のように険しく長い階段なので、その道をお年寄りが登らなくても高峯神社にお参りできるように出来た道ということでした。

高峯神社の少し手前で、道はこのように緑のトンネルのようになる。

夏だからこその風景です。

その中を潜るようにして遊んでいるのは川村光太郎くん・美月ちゃん・陽菜ちゃんの3兄妹です。

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 どんどん窮屈になっていく世の中でも、土佐町にいるとホッとすることがよくある。

その一つが、土佐町小学校教員による「USB紛失事件」だった。そもそも、このような不祥事について書かせて貰えることだけでも、すごいことだ。

 事件の当事者である先生にインタビューを申し込むと、自分がしんどかった時に助けてくださった保護者や同僚の先生方への「恩返し」だと言って快諾してくれ、事件当時は土佐町小にいなかった現在の校長先生も、「彼が良ければ私はかまわんけんど」、と笑って許可してくれた。

【事件】
 教員のほとんどがそうだと思うが、A先生が勤務時間内に仕事が終わることはまなく、残業は日常茶飯事だった。自宅から比較的近かった前任校では、週末さえも仕事をしに学校に通っていたが、自宅から往復2時間かかる土佐町小に赴任してからというもの、持ち帰りの仕事は数倍に増えた。

 A先生が、生徒たちの個人情報が入っているUSBがないことに気づいたのは、5月のゴールデンウィーク明けのことだった。実家の母親にも手伝ってもらい、数日間探し回ったが、どうしても見つからない。A先生は、素直に管理職に相談することにした。

 ことの重大さがわかったのはその後だった。町で唯一の小学校である土佐町小は、町で唯一の土佐町中との小中連携校なのだが、校長命令ですぐさま小中の全職員で2時間ほど、校舎をしらみつぶしに捜索した。

みんな、ただでさえ忙しくて余裕がないのに、自分が同僚の先生たちの仕事を増やしてしまっている…。

A先生にとって、その過程が何よりもつらかった。

結局USBはどこにも見つからず、後日、警察署に紛失届けを出すことになった。

 

 ほとんどの土佐町民がそうだったが、僕はそのニュースを夕方のテレビ報道で初めて知った。チャンネルを変えると、他の2局でも同じニュースが流れていた。僕はいても立ってもいられず、教育委員会に車をとばした。すると、誰もいない教育委員会に、教育長が一人、電話の前に座っていた。かかってくるであろう問い合わせの電話を待って。教育長は僕に、ちょうどいま学校で保護者説明会が開かれている、と教えてくれた。

 僕が学校に到着すると、緊急保護者説明会を終えた5年生の保護者らが校舎から出てくるところだった。僕は、仲のいい保護者を見つけ、なかば強引に「飲みに行こう」と連れ出した…

(雑誌『教育』2018年12月号より再掲載)

(つづく)

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くだらな土佐弁辞典

はちきん

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はちきん

【名詞】元気で快活、負けん気が強い女性(高知の元気な女性のことをいう)

 

例文:あては、はちきんやき!

意味:私は、元気で快活、負けん気が強い女性です!

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読んでほしい

9月10日の天気予報

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朝の天気予報で、今日9月10日は雨が降るでしょう、と確かに言っていた。

午前10時頃から徐々に灰色の雲が広がり、湿った生温かい空気を感じるようになった。顔を合わせた近所の人が「そろそろ雨が降りそうやね」と空を見上げてつぶやいた。

正午過ぎ、雨がぽつり、ぽつりと降り出した。5分後には傘が必要になり、さらに5分後には軒下に避難しても雨が吹き込み、肩もズボンも足元もびしょ濡れになるほどの土砂降りになった。頭上では時々雷が響き、ぶ厚い雲の内でピカっと一瞬だけ光る。

山を背景にして、雨は天から地まで続く斜線を描くように、東へ東へと移動しながら降り続ける。

以前、土佐町石原地区出身で司馬遼太郎さんの編集者だった窪内隆起さん(現在93歳)が「ヤリカタギ」という話をしてくれたことを思い出した。

「雨が風のぐあいで柱のようになり、それが何十本も連なる」様子をそういうのだと教えてくれた。目の前の風景がまさにヤリカタギじゃないか、と思いながら編集部(職場)の窓を閉める。

「この雨で稲刈りも一旦中断やねえ」と町のお母さんが話していた。聞いてみると、酒米の収穫がもう始まってるいるらしい。

 

強烈な雨は10分ほど降り続いたあと少しずつ雨脚を弱め、空が白く明るくなってきた。小鳥の遠慮気味な鳴き声も聞こえ、「ああ、雨が止んだのか」と分かる。

でも油断してはならない。5分もしないうちにまた雨音が激しくなる。雨の音の大小を聞きながら働くこと約1時間。窓から空を見れば、雨はしとしとと降っている。外に出るとあたりは雨と山のむんとした匂いで満ち、午前中よりも多分1~2度気温が下がったように感じる。

降ったり止んだりを繰り返しながら、少しずつ秋に向かっていくのだろう。晴れた日の夜には、もう随分前から虫の声が聞こえているのだから。

 

ヤリカタギ

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読んでほしい

台風15号、過ぎ去る

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九州と四国の海上を進んでいた台風15号。

土佐町では、9月4日の夜遅くから風が強くなって雨脚も強まり、雷が何度も光りました。遠くで雷が落ちた音も聞こえ、寝ていた娘が目を覚ますほどでした。

土佐町は町のあちこちに大小の川が流れています。普段は穏やかな流れの川も、台風や大雨の時は水は茶色く濁り、濁流と化します。

9月5日の朝、風は止んで小雨。朝8時ごろには雨も止み、晴れ間が出てきました。

近所の地蔵寺川がどうなっているのか、気になって見に行きました。

 

 

橋から川下をのぞくと、橋脚周辺で水は激しく渦を巻き、枝や葉を巻き込みながら、囂々と音を立てて流れていきます。水位は普段よりも1メートル以上高いように思えました。

危ないので、絶対に近寄ってはいけません。

 

↑こちら、別の日の地蔵寺川。同じ橋の上からの様子です。写真だけ見たら、同じ川とは思えません。水の透明度や水量、流れ方が全く違います。

 

少し離れたところから見た9月5日の朝の地蔵寺川。台風が去った後の川は、その後も雨が降らなければ2〜3日もすると水量も落ち着いて、水の透明度も戻ってきます。濁流が川を一掃するためです。

自然は美しいだけではなく、人間が到底太刀打ちできない激しさも持ち合わせています。

 

各地での台風被害をニュースで目にするたび、心が痛みます。

どうかこれ以上被害が広がらず、誰もが安心して生活することができますように。

皆さま、どうぞ気をつけてお過ごしください。

 

 

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本の森から

あしたの図書館

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しばらく姿を見せなかった少年が久々に図書館にやってきた。「あれ? ちょっと図書館の雰囲気、変わってない。なんか明るくなったね~」と嬉しい感想を口にした彼は、ずいぶんと背が伸び身体の厚みも増していて、もはや青年といったほうが似合う風貌になっていた。館内をぶらつきながら、以前なら素通りしていた書架の前で立ち止まり、時間をかけて本を選んでいった。

先ごろ、2年後の町立図書館リニューアルに向けてアンケートを実施した。ありがたいことに日ごろ図書館を利用している方だけでなく、あまり利用していない方も貴重な意見を寄せてくださった。そこに記された忌憚のない指摘の数々から、現在の図書館の抱える課題や新図書館の目指すべき方向性、今後取り組んでいかなければならない具体的事案が見えてきた。

新刊や話題の本への目配りや、幅広い分野の書籍を蔵書してほしい、学習スペースを増設してほしいといった、図書館の本来機能の充実を求める声は多かったが、それと同じくらい、読書に興味関心がさほどない人にも開かれた場所、住民が気軽に集い交流できるコミュニティ機能も果たしてほしいという要望があった。
また、講演会や映画上映会、コンサートの実施など、本の周辺にある文化芸術の発信拠点となることも期待されていた。旧態依然のこれまでの延長上にある図書館ではなく、日々進化し変化する、未来につながる図書館が求められていた。

住民の皆さんの期待を背負い、皆さんとともに作り上げていく図書館は、チャレンジを恐れず変化し続ける有機体でなくてはならない。そして誰にとっても居心地よく、なにかしら新しい発見のある図書館をつくることができたらと願っている。

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いしはらの風景

夏は踊る

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「納涼祭の踊りの練習が来週からはじまるき!参加してみる?」と、きよみさんから二年前の七月、石原踊り子隊に誘われました。

週2回、大人も子供も旧小学校体育館で、地元のベテランさん達の後ろに付きながら見よう見まねで踊ります。

かなり年季が入っている鳴子を手に持ちながら、『よさこい音頭』や『土佐町音頭』を納涼祭実行委員がかける音楽に合わせ、輪になって何度も練習。

私にとって、鳴子を手にするのは初めて。

三本の小さな拍子木がついた羽子板状のものを両手に持ちながら、振付に合わせカチャカチャと音を鳴らせようとするのですが、なかなかきれいな音が出なく、そちらに集中すると脚の出し方が逆になったり四回繰り返しの振りが二回になったり…

週二回の練習風景

 

1時間余り、次々と新旧の楽曲を練習していきます。

練習の後は体育館のお掃除、そしてご褒美の冷たいアイスをみんなで食べます。

体育館の外に出ると、きれいな星々が山に囲まれた空に瞬き、外の手すりには渡部家の白い犬みるくちゃんが嬉しそうに尻尾を振って家族を待っています。

納涼祭実行委員会の方から、「土曜日は6時半に文化会館からバスで相川へ行きますので、よろしく!」と声がかかります。

 

そういえば私が子供の頃は三重の地元にもたくさんのお祭りがあり、母に浴衣を着せてもらって友達と一緒に盆踊りに参加した思い出があります。

いつの間にかそれらの祭りは無くなり、ちょっと寂しい夏の帰省になっています。

今も懐かしい里山の夏の風景が残っていることは、ここに移住して来て良かったと思うことの一つ。

石原踊り子応援隊〜地蔵寺納涼祭にて

 

土佐町には各地区で夏祭りがあり、皮切りは七月最終土曜日にある、赤い提灯が祭りの風情を讃える『中島観音樣 夏の大祭』。

そして8月に入ると『相川納涼祭』、『地蔵寺納涼祭』へと踊り子隊はバスで他地区へ遠征します。

相川納涼祭の日、文化会館から町の貸切バスで会場へ。

到着した旧相川小学校グラウンドには屋台が並び、テントやベンチと一緒にビールや清涼飲料が用意されています。石原踊り子隊は応援で来ているので、ゆっくりと祭りを楽しみながら、会場で知り合いに会うと話に花が咲いたりすることも。

今年は東京から友人が石原にある『木の家』に1ヶ月滞在して、土佐町の夏を楽しむためにやって来ました。

到着早速、石原の法被を借りて『相川納涼祭』に踊り子として参加します。

祭りのパレード出発!

 

幸い今年はお天気に恵まれ、『地蔵寺納涼際』も予定通り開催され、いよいよ『石原納涼祭』の日、祭りの始まりは西石原文化会館からのパレード。

にぎやかに鳴子を鳴らしながら、踊り子隊と飛び入り参加者の行列が納涼祭会場のコミュニティーセンターまで西石原の通りを練り歩きます。

会場には中央に祭りの櫓が構えられ、テントやベンチの後ろには焼きそば屋、桃アイス、たこ焼き屋さんと一緒に地元ならではの『よしかげさんと甲把兄弟の金魚すくい』などがぐるりと軒を並べ、子供の頃に味わったワクワク感が蘇ってきます。

迫力の祭屋パフォーマンス

 

『すみれ楽団』の生演奏に合わせ、お揃いの法被を纏った踊り子達が櫓の周りを元気に踊ります。

石原納涼祭では、よさこい祭りで毎年賞をとっている『祭屋』の迫力満点のパフォーマンスがあったり、花火も夏の夜空に2度上がります。

そして祭りのクライマックスは石原納涼祭のテーマソング『ダンシング・ヒーロー』。

大人も子供もみんな満面の笑顔で、何度もくるくる回り踊り続けます。

毎年恒例”よしかげさん金魚すくい”

 

翌日、奈良からはるばる納涼祭にやって来た奈良県立大の学生が、夏の楽しい思い出が出来たと嬉しそうに話していた中で、「のびのびと楽しんでいる子供たちの姿をここ石原で、いつまでも見ることができますように。」と、誰もが心に抱いた思いを口にしていました。

土佐町最後の夏祭り『野中祭』が終わると、夕方に鳴くひぐらしの声が一際大きく聞こえます。

踊って過ごした平和な里山の夏。

涼しい風が頬を撫でる夕方、感謝の思いで空を見上げると薄桃色に染まった鱗雲が浮いていました。

 

 

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