むかしむかし小栗殿いう豪士が樫山に来ておった。その娘が夜になると引地と言う所で、麻を積んで(つむぐ)来る言うて出かけて行きよったと。
ある日のこと、その引地と言う所の人に道でばったり出合うて、娘が毎晩お世話になりよります言うてあいさつしたところが、そんなこたぁちっとも知らん、家へは来ゃーせん言うたそうな。がでん(納得)がいかんもんじゃきに、オゴケ(糸を入れる物)の底板を抜いて糸を入れておいたと。娘はそれを知らんとオゴケをかかえてその晩もまた出かけたと。
そこで、引っぱっていっちょる糸をずうーとつけて行ったら、弁才天の所に出た。弁才天の田のふちに細長い水溜りがあったですがのう。それが池みたいになっていてガマがきれいに生えちょった。娘はそこに座って麻を織りよった。おっかあが行って、「オマンそんなくで麻を積みよるかよ。」言うたら、池の中にとび込んだ言うのう。それから蛇になってしもうたと。
おっかあはびっくりしてもどって来よって、じきに引地の上の畝で血がおりた(死んだ)と言うのう。そんでそこをチオレと言うようになったそうな。その上には山ノ神を祭っちょる。
町史