「どろんこハリー」 ジーン・ジオン文 , マーガレット・ブロイ・グレアム絵 , わたなべしげお訳 福音館書店
1964年に出版された「どろんこハリー」。子どもの頃に何度も読んだこの本を手にすると、懐かしい気持ちがこみ上げてきます。
この本は「ハリーは、くろいぶちのあるしろいいぬです。なんでもすきだけど、おふろにはいることだけは、だいきらいでした。あるひ、おふろにおゆをいれるおとがきこえてくると…」というお話で始まります。ハリーは体を洗うブラシをくわえて外へ逃げ出し、ブラシを裏庭に埋めてしまいます。
実は、この始まりの前には、お話のついていない絵が2つ描かれています。
表紙を開くと、まず一つ目、バスタブに足をかけ、ブラシをくわえるハリーがいます。次のページに二つ目、ブラシをくわえてお風呂場を飛び出していくハリー。その顔はいたずらっ子そのものです。
さあ、これからハリーは何をするのかな?この2つの絵が、見事に「どろんこハリー」の世界の入り口へと連れていってくれます。
小さな子どもはまだ文字が読めないので、絵を見ます。絵を読む、と言ってもいいかもしれません。子どもにとっては、誰かが読んでくれる音としてのお話だけではなく、絵そのものだけでも、れっきとした「お話」なのです。長い間読み継がれている絵本は、つくづく子どもの視線を忘れずに描かれているのだなあと思います。
埋めてしまうほど嫌だったブラシが、最後にハリーを助けてくれます。
「よかったね、ハリー」。
その気持ちで満たされて終わる「どろんこハリー」、今でも大好きな一冊です。