「押忍!」
練習場の入り口で一礼して入る息子。
挨拶や返事は「押忍」。彼が週一回通っている、空手教室のしきたりである。
天井から空間を照らしてる水銀灯が懐かしい体育館には、すでに数名の人たちが集まっている。大人と子ども合わせて10人くらいの生徒に、教える師範はふたりいる。地域に長く続くスポーツクラブのひとつだ。
生徒たちが親しみを込めて呼ぶ「コーヨー先生」の本名は、西谷紅葉(にしたにこうよう)。実はうちの奥さんの従兄弟なのです。
六年前、当時静岡県に住んでいた紅葉と彼のパートナは移住先を求めて、笹のいえに三ヶ月ほど居候していたことがある。土佐町を拠点に四国内外のいろんな場所を訪ね、人生の新天地を見つけようという計画だった。
滞在が長くなるにつれ、周りに知り合いや友人ができた。あれよあれよと仕事や住まいを紹介してもらい、笹から車で15分ほどの地区に引っ越すことになった。ふたりが籍を入れたときは、友人たちと手作りのサプライズ結婚式して喜び合ったこともある。四年前には娘を授かって、地域の一員としてこの地に根を張り、広げている。
あるとき、空手教室で先生を探している、と紅葉に声が掛かる。
師範の資格を持っていたが、久しく空手から離れていた彼。迷った末、地域のためならばと一念発起して、このオファーを受けた。試行錯誤して続けて行くうちに口コミで生徒が増え、いまでは町外からも生徒が通う。また当初一箇所だった練習場所は、住民の希望で別の地区でも開催することになった。保育士の経験もある紅葉先生の指導は子どもにも好評で、練習は真剣ながらも時折笑い声が響き、生徒たちは楽しんでこのスポーツに慣れ親しんでいる感がある。興味のある人や保護者は見学が自由にできる。参加者の妹や弟が空手の型を真似してみたり、走り回ったりして和気藹々とした雰囲気だ。
うちで居候していたときはまさか同じ町に住むなんて思ってもみなかったけれど、親類として友人として、そして、同じ町民として付き合えることが嬉しい。農作業や力仕事など、事あるごとにコキ使って、、、もとい、とても頼りにしている。
写真:練習会場である石原地区体育館で。息子は昇級試験に合格し、黄色帯となった。