「人新世の資本論」 齋藤幸平 集英社新書
気候変動やコロナ禍のさなか、世界の(もしくは人類の)価値観は急速に変化を求められています。「今まで作ってきた世の中が、果たして正解だったのだろうか?」という根深い疑問がその根底に流れています。
資本主義という、「利己」を最大限に解放することで社会の原動力とする仕組みの力強さ。ここ100年ぐらい、その仕組みを御旗に進んできて、今、多くの人々が持つ「これ合ってないんじゃない?」という思い。
今までの価値観と仕組みの問題はどのようなものなのか。
では次の世の中をどういう価値観で進めていくか。
著者の経済哲学者・齋藤幸平は、マルクス主義を主戦場としている人です。
本書のキーワードは「脱成長」と「コモン」。もうすでに資本主義の「修正」でなんとかなる時期は通り越していて、資本主義ではない次の仕組みに移っていかなければ人類もこの惑星も、もう保たない。(その文脈で、著者はグリーンエコノミーやSDGsを「本質的な問題から目を逸らすことになる」として痛烈に批判しています)
表面的な取り組み云々では、次の世代が生きやすい環境を残すことも不可能で、根本的な価値観から見直す必要があるということ。
その価値観の話が「脱成長」。過去100年のエンジンとなった資本主義の宿命である「経済成長」、これを根本から疑っていく。「右肩上がりの成長を善としてきた価値観は正しいだろうか?」
そしてもうひとつの「コモン」。資本主義の「私有」の概念に対する疑い。
際限のない私有は社会をおかしな方向に導くし、公有も上手くいかない例が多い。その中間ともいえる「市民有」(私営・公営の中間にあたる「市民営」)がコモン。
いわゆる「共有」であり市民の共同管理。特に水や道路などインフラに近いものの運営のあり方は厳しく問われるべき。
例として、著者はスペインのスーパーブロック(バルセロナで行われている、車両乗り入れ禁止のブロックを作る都市計画)などを挙げています。
非常に興味深い内容で、この本がある意味「時代のバイブル」的な受け止められ方を一部でされていることも頷ける話です。
世界の価値観が現在進行形でどのように変化しているのか、そしてその変化をもとに自分の価値観がどのように変化していくのか。
さらに最も大事なことは、変化した価値観をもとにどういった行動を起こしていくのか。
動いては考えてを繰り返していこうと思います。