地域に眠っている鹿の角を加工し、販売する。
日頃余熱暮らしをしている僕としては、「使われていないものを再利用する」というコンセプトだけで、グッと来てしまう。これをガチャという遊び心をくすぐる方法と合体させ世に送り出す、という発想が、創造力の乏しい僕には、ちょっとした雷が落ちたくらいのメカラウロコ感があった。
しかもそれを住民と協力して、収益を生み出す。そんなことも、とさちょうものがたりが普段からこの地のコミュニティと深く繋がっていることを表している。
所有者の使われていなかった角が有効活用され、購入者に夢を与え、作り手の所得にもなる、まさに「三方善し」のアイデア商品だ。そこまで利用されれば、元々の持ち主である鹿も本望で、四方善し、かもしれない。
僕とこの商品との関わりは三ヶ月ほど前から。
拓ちゃんから鹿角加工のバイトをしないかと声を掛けてもらった。
角を適当な長さに切断し、紐を通す穴を開け、研磨するまで。商品になる工程の半分といったところだが、この後どうやって商品が完成するのか気になっていた。
そんな思いを汲み取ってくれたのか、今度は百合子さんから、実際の作業を見にいかないかと誘ってもらった。日程を決めた数日後、加工済みの鹿角と共にファーストさんを初めて訪れた。
自己紹介もそこそこに早速一緒に作業を開始。
慣れない場所と人たちに僕は少し緊張していたが、利用者さんと職員さんの普段通りであろうやり取りにちょっとずつ気持ちが解れていった。
作業は分担制。紐を決まった長さに切る人、穴に通し結ぶ人、説明書きと鹿角をカプセルに入れる人、、、僕の手を離れた鹿角たちがこんな場所でこんな人たちに可愛がってもらっているのか、と親心にも似た感情を抱きつつ、お手伝いをさせてもらった。
淡々と進む作業の合間に、彼らといくつかの会話を交わし、頷いたり笑ったりした。
カプセルに詰められた鹿角が段ボール箱のスペースを埋めていき、あっという間に(本当にあっという間に)、予定していた作業時間が終了した。少しの休憩を挟んで、その後は別の作業があるという。多忙なスケジュールの中、僕たちを受け入れてくれた皆さんに感謝し、施設を後にした。
帰りの車中、運転する百合子さんと、あんな風に作業しているんだね、少しの時間だったけれど一緒に手を動かせて良かったね、と言い合った。こんな小さな経験の積み重なりが、作り手としての自覚や商品への愛着になるのだろう。
加工場で僕はひとり鹿角加工をするが、次回からは彼らの笑顔を思い出しながら少し温かい気持ちで作業をするだろう。