「今日、みっちゃんが畦付けるらしいき。アラカシの坂らへんにみっちゃんくの田んぼがあるき、11時ごろ行ってみて!白い車がとまっちゅうき、わかると思う。」
土佐町社会福祉協議会の上田大さんから電話がかかって来ました。
大さんに「手で畦をつけている人、誰か知ってる?」と相談したら、美津子さんの娘さんへ連絡、娘さんを通じて美津子さんを紹介してくれたのです。
美津子さんはこの田んぼにいました。
川井美津子さん、77歳。お米や野菜を作り、あか牛も飼っています。ひ孫さんが11人いるそうです。
畦つけ機で畦をつけた後、機械が入らなかった部分は人が手で畦をつけます。
「田んぼを叩く時トラクターが入ってこなすでしょ、その時に同時に(畦に土を)あげるんです。上げとかんと水がもれるきね、こうして上げといて代掻きの前に仕上げをするんです。
すぐには全部仕上げができないのでね、ドロドロ柔らかいから、ある程度時間が経ってから。
昔はこれが当たり前やったけどね。今は楽になったのよね。
さ、仕上げ、やってみろうかね!」
美津子さんは平鍬をかついで田んぼに入っていきました。
なんという早技!
そして美しい!
「やっぱりね、違うでしょ!しっかりと水もれがなくなるわけよね。仕上げをしたら綺麗でもあるし。
昔の人はよく考えたもんやねえ!と思うてね!」
美津子さんは19歳の時に嫁いで来て、20歳から毎年毎年、この作業を続けて来たのだそうです。
「嫁いできて、田んぼのシーズンが来たらおじいちゃんおばあちゃんが元気やったき、教えてもらって。当たり前というか、こうせんことには田んぼができんきね。今は機械化されて楽になりましたわ。」
あ!ごめんね!ちった!(泥がはねた!)
「若い時は畦を走ってやりよった!
ちゃっちゃっちゃー、たったったー、って。小走りでするばあにやりよった。
おじいちゃんが仕事師でね、仕事を早くせないかん、はかどらせないかん、そのことを叩き込まれてね。
自分でようせんかったことがだんだんと若い時でき出してね。嬉しかったがね!
やっぱりね、どう言ったらえいろ?
仕事がなんでも楽しくなるようにせないかん、って思ってね。いやいやと思ってやったら自分がしんどくなるきね。
作業は特に重労働やきね、自分の体を考えながら休みながら、楽しくできるようにやったら。
要領を覚えたらすごく、面白い!」
美津子さんが軽やかに、歌うように、畦を走る姿が見えるようでした。
「主人が30年前に亡くなったきね、私は今、お手伝い。畑で野菜を作って孫たちに配ったり、できることをする、ということでね。みんなに喜んでもらうのが一番嬉しいです。
長い間には辛いことも悲しいこともいっぱいあったけどね、でも、いつもそんなこと思ったら自分がしんどいきね、辛いきね、前向きに、楽しいことを見つめて。」
美津子さんはそう言って笑うのでした。
美津子さんは「仕事も大事やけど、趣味も大事!」と話してくれました。
詩吟、ダンス、カラオケを仲間の方たちと楽しんでいるそうです。
「仲間がね、同世代、同級生が3人おる。同年代同士が励ましあいながら、絶対できんと言いながら、頑張らないかんで!と励ましあいながら、やってたら知らず知らず体で覚えてくる。」
美津子さんに「お会いできてよかった!」と言うと、「あら〜、私も!」と言ってくださったのがうれしかったです。
畦は「田んぼの神さまが歩く道」なのだと聞きました。
畦をつけることは、ずっと昔から神さまが歩いて来た道と、これから足跡をつける道を結ぶ仕事。
田んぼの神さまはきっと、土佐町の人たちが汗をかいて作った道を歩き、稲の育ちを見守ってくれるんやないかなと思います。
・『畦をつける その1』
・『畦をつける その2』
美津子さんと出会えたのは、地域の人のことをよく知り、つないでくださっている土佐町社会福祉協議会の大さんや皆さんのおかげです。ありがとうございます!