渓流釣りに行く時は、底にすべり止めのフェルトの付いた長靴をはく。
それで瀬を渡ったりしている時、不意に、子どもの頃はみんな藁ぞうりをはいて行った、そのぞうりも自分で作っていたなあ、という思いが浮かんだりする。
私の場合は小学校に入る何年か前から、渓流釣りへの入門とも言えるモツゴ釣りから始まった。
今でもはっきり覚えているが、小学校に入る直前の春にモツゴを釣っていて、偶然にアメゴが釣れ、それからアメゴにのめり込んだ。すぐには釣れず、3年生の頃からそこそこ釣れ始めた。
川の石は苔が付いていると、すべりやすい。そのため比較的すべりにくい藁ぞうりをはいて行く。今のようにフェルト付きの長靴などはもちろんなく、太平洋戦争で各種物資が次第に不足し始めていた。
私のはく藁ぞうりは、祖父が作ってくれた。
それをはいて釣りに行くのだが、どうもしっくりこないな、と感じるようになった。
それは、ぞうりが足のかかとから余って、反り返ってしまうからだった。
道を歩く時はなんとか我慢できたが、川に入ると水圧を受けて脱げそうになる。
もちろん祖父も、子どもがはくのだから、大人のよりも小さく作ってくれてはいたが、太い指では細工しにくいんだろうと思った。
そのうちに、自分で作ってみようという気が湧いて来たので、祖父にそれを言うと、
「そうか、ぞうりが太すぎるか。自分で作ってみるか」
と言った。そしてぞうりを作る準備をし、
「この通りやってみ」
と言ってくれた。それから祖父がぞうりを作る時は、そのやり方を見様見真似で練習した。
まず、ぞうりの芯になる縄を綯うことから始まった。
それを両足の親指に引っかけ、適当な幅にして藁を編みつけていった。途中で横緒になる縄を編み付け、適当な大きさにまで編んで、ぐっと引き詰める。それでかかとが円く締まり、ぞうりの形になる。あとは鼻緒を結ぶだけである。
祖父は鼻緒を、“すげ緒”という方法と、“とんぼ結び”という方法の2通りを作っていたが、とんぼ結びの方が切れにくいと言っていた。結んだ縄がとんぼの羽根のように、左右に張っているので、この呼び名になったのだろう。その羽根の部分を適当な長さに切れば出来上がりである。
1週間か10日ぐらいの練習で、自分がはくぞうりを作れるようになった記憶がある。
かかとを強化するため、そこにぼろ布やシュロの毛を編み込んだりもした。
テレビもなかった時代だから、ぞうり作りも結構楽しい、夜の時間つぶしの方法でもあった。