「雪の写真家 ベントレー」 ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン文, メアリー・アゼアリアン絵 BL出版
子どもと子どもの本に関わる仕事を20年ほど続けてきました。子どもたちに本を手渡す仕事は、世の仕事の中でも1位、2位を争う素敵な仕事ではないかしら?と思っています。 子どもたちに本を手渡す度に幸せを感じるのですが、それと同じくらい心が弾むのは、子どもの本に関わっていなければ、知らずに終わったであろう本に出会ったときです。この絵本もそんな一冊です。
今年の3月まで勤めていた高知こどもの図書館は1999年12月に開館した、日本で最初のNPO法人が設立し運営する図書館です。この「雪の写真家ベントレー」が発行されたのも同じ年の12月。
開館してしばらくしてから図書館の蔵書に加わった絵本です。伝記絵本として、美しい冬の絵本として、大人にもお勧めの絵本として….。様々は視点から紹介したことでした。
150年ほど前のアメリカの豪雪地帯の農夫の家に生まれ、50年に亘りひたむきに雪の写真を撮り続けたベントレー。学校には2、3年しか通うことができず独学で雪の研究をし、結晶の写真を撮っていた彼は、いつしか世界中のだれもが認める「雪の専門家」となっていました。けれども裕福とは言い難い農家でしたから、苦労は多かったようです。
ベントレーが雪の結晶を写せる顕微鏡付きカメラを手に入れたのは17歳の時でした。「雪なんかに夢中になって、ウィリーには困ったものだ」とこぼしていた父さんが、10頭の乳牛よりも値段の高い立派なカメラを買ってくれたのです。変わり者のベントレーを家族がどんなに愛していたかが伝わってくるこのシーンは、何度読んでもグッと胸に迫ってきます。
生前ベントレーは「酪農家からは一杯のミルクを。私の写真からも同じくらい大事なものを受け取ってもらえるだろうと、私は信じている」と語っています。 美しく温もりのある版画で綴られたこの絵本からも、一杯のミルクと同じくらい大事なものが伝わってきます。
古川佳代子