稲叢山には稲ににた草がはえるのでその名がついたと言われる。
この草は神々の食物で、一般の人々が刈り取ることをきらっていた。
ある年のこと、栗ノ木村(現在の栗木)の太郎平と言う人が、稲叢山のこの草を刈り取ろうと山に入り鎌をかけようとした。
するとすぐに、地響きがし、暗闇となって、大きな老翁(年とった男)が現れ、太郎平の鎌を取りあげ
「これは神々のお食べになるもので、お前たちの食べるものではない。もう決してこの山に来るでないぞ。」
と言って去って行った。
太郎平はやっとの思いで家に逃げ帰った。帰ったものの大事な鎌を取られて、百姓仕事もできない。
困り果てた太郎平は山の神にお願いしたところ、大杉の上にあの老翁が現れ鎌を落としてくれた。
それからこの山を鎌取山と名づけて、祭り始めたと言う。
この話は、山の神が老翁になって現れたと言う伝説である。
稲叢山を含めた山は”一の谷山”と呼ばれ、古来七里回りの大深山とされ、不入山(いらずやま)の霊山であった。
もし山に入る時には、三日七日の精進(修行にはげむ)で身を清めなければならなかった。
殺生人(狩りをする人)も精進せずに踏み入ると、昼間と言えどもたちまち暗雲垂れ、風雨が激しくなり猟ができない。
それで山を出ると、一瞬にして晴天白日になると言うような、さまざまな怪異が生じたと言われている。
また、土佐町の山々では、まずこの山から日が当り始めるので、「日の出山」、「朝日山」とも呼ぶことがあると言い伝えられている。
町史(「土佐町の民話」より)