毎年、年末になるとふみさんの家の前には立派な門松が飾られる。
ふみさんは土佐町にある「ふみ美容室」の店主。
昨年、ふみさんに着付けをお願いした。
帯をどちらにしようか迷っていた時「自分の好きな方をつけたらいいのよ。楽しんでらっしゃい!」と背中をぽんと叩いて送り出してくれたことがとてもうれしくて、それからは勝手にお母さんのように思っている。
2017年12月27日、いつものようにふみさんの家の前を通ると、てっぺんが斜めに切り取られ、下はぱかっとくり抜かれたように穴の空いた太い竹がお店の前に立てられていることに気づいた。
門松を作る準備をしてるんだ!
ふみさんに「門松を作るところを見せてほしい」と話すと「明日の昼頃からやると思う。午前中は『わかば』と『うらじろ』を山に取りに行くから。ほら、あそこの山よ。」と指を差して教えてくれた。
白い四角い建物とその裏にある山の間に『わかば』があるそうだ。
その場所はふみさんの家の山ではないけれど、その山の持ち主の人が「取っていいよ〜」と言ってくれているとのこと。
土佐町の人は「自分くの(自分の家の)山」と普通に言うけれど、「自分の家の山」って都会にはなかなかない感覚。
「これが『わかば』。別名『ゆずりは』とも言うよ。縁起物やねえ。これにおもちをのせて床の間に飾ったりするよ。普通、古い葉が落ちてから新しい葉が出てくるんやけど、ゆずりはは、新しい葉が少し大きくなってから古い葉がゆっくり落ちるんよ。代々ゆずっていくので、ゆずりはっていうんやないかな。」
これは『うらじろ』。こちらは表。
こちらが裏。
「よく見て。小さな胞子がついてるでしょう?」とふみさん。(よく見ると茶色の小さな小さなつぶつぶがついているのが見えます)
うらじろは別名「オナガ」ともいうそう。
「うらじろは裏が白いから(確かに表よりも裏は白っぽかった)気持ちに裏表がないように、っていう意味なんやないかな?」と言う。
こんな感じなんやないかな?という感じがゆるやかでいいなあと思う。
山から採ってきた材料が広げられている。
「今年は自分くの裏山の南天を使うんやけど、毎年わざわざ持ってきてくれる人もいるよ。南天は「難を転じる」という意味があるんよ。『難転(なんてん)』が『南天(なんてん)』になったんやないかな?お正月に飾るものには理由があるんやねえ。」
とふみさん。
竹はふみさんの家の裏山から切って来たもの。大人の手のひらを思い切り広げたくらいの太さで、斜めに切ってあるところから次の節のところまで水がたっぷり入っている。まずは南天をいけ、余分な葉ははさみで切り落としていく。
友人の笑子さんがやって来た。笑子さんもこれから門松を作るのだという。
ふみさん:「わかば、ある?」
笑子さん:「あるよ。」
ふみさん:「どうやろ?」
笑子さん:「もうちょっと、南天の葉っぱを足したらいいんやない?」
南天のたわわな実をゆたかに、わかばは左右に広がるように、松(松だけは買ったのだそう)を上へすくっと立つように、そしてうらじろをいける。「うらじろは下に(地面に)生えてるし、下がいいのかなーって思って。」とふみさん。
「自己流、自己流、でね。」とふみさんは笑った。
下側の穴には葉牡丹を。この角度だといけにくいということで、ふみさんのご主人がのこぎりで斜めに切り口を入れる。
完成!
なんて美しいのやろう、と思う。
笑子さんが見せてくれた。
「こんな風にわかばと南天を重ねて、台所のすみっこやお風呂のたき口、かまど…、火のあるところに置くのよ。『今年もありがとう、来年もよろしくお願いします』っていう気持ちでね、毎年してるの。(写真の笑子さんの親指のあるところに)お餅をのせるのよ。」
「これも自己流、自己流。」と笑子さん。
この日、門松の材料を乗せた軽トラックを何台も見かけた。
みんな山から材料を取って来て、家で門松を作るのだろう。
もうひとつの門松も完成。こちらの葉牡丹は白。紫の葉牡丹が紅で、紅白を表しているのだそうだ。
なるほど!
門松が完成した頃、軽トラックの魚屋さんがやって来た。
ふみさんは魚屋さんにおすすめを聞き、あれこれ見ながらお正月用のお魚やおじゃこを買っていた。
美容院で使う品物を運んでくる人や、近所の人が次から次へとやってくる。
その様子をそばで見ながら、ふみさんがいるこの場所は人が集まる場所になっているんやなあと気づいた。
ふみさんは、しらすの入った袋を私に渡してくれた。
「これ、ひとつ多めに買ったから、どうぞ。夜、しらすごはんにしたら?ここの美味しいから。」
(この日の夕ごはんはふみさんのいう通り、しらすをたっぷりのせた『しらすごはん』にした。本当に美味しかった!)
山の向こうに沈もうとしている太陽の金色の光を見ていたら、2017年にあった出来事がひとつひとつ思い出された。
お正月を迎える準備をしながら、新しい年を迎える心の準備もしていくのだなあと思う。