子どもたちとかくれんぼをした。
じゃんけんですえっこが負けて鬼になった。さあ、どこへかくれよう?
「いーちー、にーい、しゃーん、しーい、ごーー・・・。」
遠くから数を数える声が聞こえ始める。
「もーいーかーーい?」。
私は薪ストーブのある部屋の窓を開けた。開けるとそこはもう外で、足元には薪棚がある。薪棚の上には割った竹を並べて屋根のようにしてあるからその上に乗れるのだ。
うん、ここがいい。
私はそこにそっと乗って、しゃがんで隠れた。ちょっとぎしぎしいっているけど、まあ大丈夫だろう。
窓を閉めると、すえっこの声は聞こえなくなった。
いい場所を見つけた。
きっとなかなか見つけられないだろうなと思いながらしゃがんでいると、風が吹いてきた。
思わず顔をあげると、目の前には今年の新しい葉をつけたイチョウの木が枝を揺らしていた。
鶏小屋の隣に植えたイチジクの木は、いつのまにか大きくなっていた葉がわさわさと揺れ、今年の実までつけていた。
目の前には雑草がぐんと伸びている。草刈りをしないといけない。
新緑の季節を迎え、半袖でもいい日が増えてきたなあと思ってはいたけれど、もうこんなに季節が移り変わっていたのか、としばらくぼんやりと目の前の風景を眺めていた。
すると遠くに見える山々の向こうから、むん、としたにおいが運ばれてきた。
あ、これはどんぐりの木の花のにおい。
土佐町のカフェ「かのん」のお父さんがこの前教えてくれた。この風のことを「薫風(くんぷう)」というんだよ、と。
「五月の風は季節のかおりを運んで来るんだ」。
その言葉はとても心に残っていた。
現実の世界と言葉が結びつくというのは、きっとこういうことをいうのだろう。
「どこにいるのーー?!」
すえっこの声が家の中から聞こえてきて我に返った。近くにいる。
そうやった、かくれんぼをしてたんやった。
そろそろ姿を現してあげようかなと、ドンドンドン!と外から窓をたたくと、「え?どこ?どこ?」と驚いている声がして笑ってしまう。
「え?ここ?こんなとこ?」と息子の声もする。
きっと長い間私が見つからないのを見て、一緒に探し始めたのだろう。ふたりが窓の方を見ている感じが伝わって来る。
私も外からガラス越しに中をのぞき込む。ふたりと目が合った。
ふたりの顔が何だか引きつっている。
ガラガラと窓を開けてあらためてふたりを見ると、ぱああっと笑顔になった。
「なんだ!母さんか!どっかのおっさんかと思ったよ!!」と息子。
窓ガラスの向こうに見えた私の顔は「おっさん」だったらしい。