◯小学生の時の夏、アメゴを突きに渓流に行った。
目的の渕へ、藪をくぐって下りていると、右足にひんやりしたものが触れた。半ズボンだったので、足はむき出しである。露で濡れた草がからみついたのかと思い、足元を見て、ぞっとした。身がすくんだ。
青大将が足に巻きついていた。私の足が頭を踏みつけていたため、尻尾の方から足に巻きついたのであった。
巻きついた部分が微妙にじりじりと締まるようなので、夢中で右足を振った。頭を踏まれていた重しがとれたので、青大将はするすると身をくねらせて、あっというまにしばりをほどき、藪の中に入って行った。
あの冷い感触は、しばらく右足に残った。
◯あまり得意ではなかったが、ひご釣りでうなぎを釣った時のこと。
竹ひごとうなぎを左右の手で引き合って、うなぎがはずれないようにし、魚篭を置いてある方へ歩いた。その途中の岩の上でうなぎが暴れて釣針がはずれ、手から落ちた。
慌ててうなぎを押さえたが、目の前に動く物が見え、それを確かめた時、恐怖が身体に走り、飛び退った。うなぎは手から岩の上に落ち、くねりながら水中に落ちて逃げたが、それはもうどうでもよかった。
岩の上に居たのは蝮であった。渓流の岩の上に時々居る。みんな「ハメ」と言っていた。
ハメは私に驚かされて怒ったのか、三角型の鎌首をもたげていた。
「ハメを見たら、へたに近寄らずに、長い棒ででも必ず殺しちょき。人が食われたら大ごとじゃきに」
祖父や大人たちからいつも言われていて、それまでも何度かハメをやっつけたことがあった。
この時も長く太い流木を使って、ハメを処分した。
◯アメゴを釣る時、青蛙の子を時々餌にした。今の養殖放流アメゴとは違って、当時の天然アメゴは、青蛙の子によく食いついた。
その日、岸近くに伸びている柳の葉の下の流れに、その餌を投げ込んだ。こういう葉陰の瀬で、よくアメゴが釣れた。ところがー。
岸から長いものが、青蛙めがけて伸びてきた。青大将であった。大慌てで釣竿をしゃくり上げ、青蛙と逃れさせようとした。が、その前に青大将が食いついた。
力まかせに釣竿を上げようとしていたところだったので、釣針が青大将の口にがっちりと掛った。勢いで青大将の上半身が水面上に一旦引き上げられたが、頭を激しく振りながら、また水の中に落ちた。こんどは釣竿が強い力で引き込まれ、折れそうに大きく撓んだ。
私も驚いたが、青大将の方もそれ以上に驚いたに違いない。猛烈に暴れ、これでは釣竿が折れる、と思った。
なんとか手元に引き寄せて首を押えれば、釣竿ははずせるだろうが、もしかして手を噛まれるかもしれない。腕に巻きつかれるのもいやだ、と思った。
そこで四苦八苦して、ゆっくりゆっくり釣竿を縮めてテグスをつかみ、はさみを取り出して切った。
青大将は釣針が口に刺さったまま、柳の葉の下に消えた。
撮影協力 細見優太