2021年1月から2月にかけて高知県内9市町村の郷土料理を撮影し、製作した動画をご紹介しています。
第9回目は、香美市で作られている郷土料理「蒸し鯛」です!
「蒸し鯛」は、鯛を丸ごと一匹を使った大迫力の郷土料理。鯛のお腹に、葉ニンニクや卵、砂糖などで味付けしたおからを詰めて蒸しあげます。昔から、冠婚葬祭などお祝い事の席で作られてきたそうです。鯛一匹盛られた大皿がドーン!と出てきた時の歓声が聞こえてくるようです。
手書きの料理名
郷土料理の動画の冒頭に出てくる料理名は、高知県嶺北地域の障がい者支援施設のメンバーさんに描いていただきました。「蒸し鯛」の文字は、土佐町にある「どんぐり」のメンバーさん作。クレヨンやマジックなどを囲んで、みんなで賑やかに描きました。「蒸し鯛」は、マジックで描かれています。
ウロコは大根で取る!
「蒸し鯛」づくりは、鯛のウロコを取るところから。ウロコを取るための道具を使うのかと思いきや、香美市のお母さんが手にしたのはなんと大根!輪切りにした大根を鯛の表面に滑らすと、あら不思議!面白いようにウロコが取れていきます。「大根だとウロコが飛び散らないし、一気に取れる」とお母さん。ウロコ取りでウロコを取ると辺りに飛び散り、数日後、カラカラに乾いたウロコが思いも寄らないところにくっついているのを見つける、ということがありますよね?大根だとその心配はありません!
なるほど〜!
目からウロコのお母さんの知恵でした。
おからの名前は「おたまちゃん」
鯛のお腹に詰めるのは味付けしたおからです。刻んだ葉にんにくや木綿豆腐、すりごまなどを混ぜ合わせ、鯛のお腹に詰めていきます。
「蒸し鯛」を作ってくれた香美市生活改善グループの代表、西内さんが「おからはお腹に詰めると、“おたまちゃん”になるんです」と話してくれました。おからに他の材料が加わり、鯛のお腹に収まった時、呼び名が変わる。それが「おたまちゃん」。
まるで、手のひらに大切な宝ものをのせているような手振りで「おたまちゃん」と話す西内さんの姿から、この蒸し鯛の存在を大切に思っていることが伝わってきました。
お母さんの知恵 その1
鯛を蒸す工程には、お母さんの知恵が詰まっています。
まず一つ目。
鯛を蒸し器に入れるとき、蒸し器に藁を渡します。その上に「はらん」という葉をひいて鯛を載せ、鯛の上で藁を結びます。蒸し器から鯛を出すときに、持ち上げやすいようにするためです。
香美市はお米どころ。お米が身近な土地ならではの知恵なのでしょう。
お母さんの知恵 その2
その1で出てきた葉、「はらん」。
「はらん」は、笹の葉を大きくしたような葉のことで、家の庭先などでよく育てられています。根元から切って、皿に載せ、飾りつけに使ったりします。高知では「はらん」は、料理をよくする人の家の庭に必ずあると言われているほど、馴染みがある葉です。
藁の上に「はらん」をひくのは、鯛が蒸し器にくっつかないようにするためです。
お母さんの知恵 その3
お母さんの知恵、三つ目。
鯛の蒸し上がりがわかるよう、さつまいもも一緒に蒸します。
「おたまちゃん」をたっぷり詰められて太った鯛は、一体どのくらいの時間、蒸したらいいのでしょう?
「蒸し上がったかな?」と何度も串を突き刺すと、鯛が崩れてしまいます。
そこで登場するのがさつまいも!
さつまいもに串をさし、柔らかく蒸し上がっていたら、鯛も蒸し上がっているという訳です。
撮影中、「へえ〜!」と何度つぶやいたことでしょう。郷土料理は、お母さんたちが長年積み重ねてきた、知恵の結晶なのだなと感じます。
お客さまには一番美味しいところを
蒸し上がった鯛を取り分けるとき、まずはお客さまに「一番美味しいところ」を取り分けるのだそうです。
それは胸びれのうしろ。それから、みんなでわいわいと少しずつ取り分けていく。昔、山に面した香美市は魚が手に入りにくかったので、魚を使った郷土料理「蒸し鯛」は、きっとみんなが楽しみにしているごちそうだったことでしょう。
若き後継者
今回の撮影で訪れた高知県各地では、郷土料理の後継者がなかなかいないという声もよく聞きました。この「蒸し鯛」を作ってくれた「香美市生活改善グループ」では30〜 40代の方たちも活躍していました。今回の撮影でも、先輩のお母さんたちが料理をしているところを見守りながら必要なときにサポートしたりと、細やかな気配りをしてくださっていました。作る現場を共にすることで後継者が育っていくのだなあと実感したことでした。
編集部も「蒸し鯛」をいただきました。
葉ニンニクが効いていながら優しい味でもあり、今でも「あ〜、もう一度食べたい!!」と記憶の味をかみしめています。
思い出す「蒸し鯛」の向こうに、お世話になった香美市のお母さんたちの姿が見えます。
迫力の「蒸し鯛」、その中には培われてきた知恵と美しさが詰まっています。
ぜひご覧ください!