近所に80代のおばあちゃんが住んでいる。色とりどりの毛糸で編んだマフラーをし、手にはパッチワークの鞄を持って、歩いて買い物に出かける姿をよく見かける。おばあちゃんは味噌や醤油を手作りし、小さな畑を上手に使って、美味しい野菜を作る。
道端で会うとお互いに挨拶し、一言二言話すのだが、おばあちゃんは必ずいつも「子どもさんは元気?」と聞いてくれる。元気にしていますよ、と答えるたび「よかった、よかった。子どもさんの姿を見ると、元気になる」と目を細めてくれる。それはお世辞などではなく、ああ、本当にそう思ってくれているのだとよくわかる。おばあちゃんの声や丸い小さな背中が伝えてくるものは、言葉よりも強い。
年が明け、数日たった日のことだった。ガラガラと戸が開く音がして「いらっしゃいますか?」という声がした。玄関へ行くと、おばあちゃんが顔を覗かせていた。おばあちゃんは玄関に入ってきて、いつもと同じように「子どもさんは元気?」と私に聞いた。私も「元気ですよ、いつもありがとうございます」と応えた。「よかった」と言いながら、おばあちゃんはパッチワークのカバンから小さな袋を取り出した。
「これ、子どもさんに」
おばあちゃんが差し出したのは、お年玉だった。
子どもたちは一人ずつ、おばあちゃんからお年玉を受け取った。お年玉は3人分あった。おばあちゃんは、ちゃんと人数分を用意してくれたのだった。
「子どもさんの声がするのが、本当にうれしいのよ」
そう言うおばあちゃんの手から、あまい味噌の香りがした。遊びに来ていた孫に持たせようと、さっきまで袋に入れていたのだという。
私は、何だかどうしても、目頭が熱くなってしまうのだった。
コロナ禍のなか、年末年始も実家へ帰れず、出かけること自体もはばかられるような中で、心が凝り固まりそうになる時がある。世界中の人たちが同じ状況なのだ、となんとか心の置き所をやりくりする日々が続いている。おばあちゃんは、そんな私の心をふっと、ときほぐしてくれた。
お年玉は、今も子どもたちの机の横に大事に飾られている。
おばあちゃん、ありがとう。