土佐町の絵本「ろいろい」。コロナ禍の数年も挟んで、約5年かけた長期プロジェクトとなりました。
完成した「ろいろい」は、ジャバラ型の少し変わった形をした絵本。ながーいページを伸ばすと、そこには土佐町の実在の風景や文化、人々が描かれています。
表面には春と夏の町。裏面には秋と冬。
15回に渡る記事で、絵本「ろいろい」を1ページずつ解説していきます。
秋冬2ページ目は南川のカジ蒸し
ろいろい ろいろい
かじむしの ゆげのむこう
かわをはいで かわかして これがとさのかみとなる
いっしょにむしたさつまいも
ひえたてのひらあたためる
「あとでししじるたくき うちんく きいや」
毎年2月、土佐町南川地区では「カジ蒸し」が行われています。カジを蒸す木の甑から白い湯気が上がり、その元でカジの皮を剥ぐ人たち。その風景は冬の風物詩と言ってよいでしょう。
「カジ」は楮とも言われ、紙の原料になるもの。畑や山に育つカジを切り出し、蒸しあげ、皮を剥ぎ、皮を乾かして出荷します。昔から高知県各地で行われてきた仕事で、山で暮らす人たちの貴重な収入源でした。以前は土佐町の各地でもカジ蒸しをしていたそうですが、今ではめっきり少なくなりました。
絵にはカジと一緒に蒸したサツマイモも描かれています。このサツマイモの存在が楽しみの一つだったそう。寒い風が吹くなか、甑やサツマイモから上がる湯気は、働く人たちの身体をほっと暖めてくれる存在です。
カジ蒸しは、何世代にも渡って引き継がれてきた労力のかかる仕事です。そして、とても貴重な営みです。
絵本を通し、こういった営みがこの地で行われていることを多くの人に知っていただけたらと思います。
↓南川のカジ蒸しについての記事はこちら
シシ肉をいただく
カジ蒸しのお手伝いをさせていただいていた時に、通りがかった軽トラック。その荷台には捕らえられたイノシシが載せられていました。
↓その時の様子はこちら
猟師さんはこのイノシシを捌いて肉にします。
文章中の「あとでししじるたくき うちんく きいや」。これは、冬の間よく聞かれる会話です。
山にはイノシシをはじめ、鹿や猿、ハクビシンやタヌキなどもいます。田んぼや畑の作物を荒らしたり、鳥獣被害も多いため猟師さんは山へ入って猟をし、罠を仕掛けます。
なぜ、鳥獣被害が起きるのか?猟師である近藤雅伸さんがこんな話をしてくれました。
「山を植林にしてしもうたき、食べ物がないき、作物のあるところにイノシシは来る。イノシシには本当は罪はないんよ。イノシシは人が作っちゅうなんて知らんわけやき」
鳥獣被害の原因は人間自らが作り出している一面もあるのだと思います。でも、人間も生きていかなければならない。だから捕らえる。そして、捕らえた命を無駄にしてはならないとありがたくいただく。
近藤さんは、イノシシを捕らえたら、その肉を周りの人に分けて食べてもらうそうです。
「ひとつの命をみんなで分けて、“ありがとう”とみんなに食べてもらったらええんじゃないかと思って。一つのものを大事に使うて、食べて、自分があとで後悔せんようなかたちにしていきたい」
シシ肉は、野菜と一緒に炊いて汁にしたり、塩胡椒して焼いて食べます。つい先ほどまで山を走っていた命。口にすると、身体の奥底からふつふつと確かなエネルギーが湧いてくるのを感じます。
大昔から繰り返されてきた生きるための営みが切り離されることなく日常として存在していることは、今の日本の中でとても貴重なことだと思います。
↓猟師の近藤雅伸さんから聞いたお話はこちら
優良運転者の証
描かれている軽トラックをご覧ください!前右下にきらりと光る黄金色の印。これは高知県の優良運転者に授けられるもので、土佐町内では高齢の方の軽トラックに付けられているのをよく見かけます。
調べてみると「無事故無違反年数10年以上、人格技能ともに優れ過去に同じ表彰を受けてない方」という選考基準もあるとのこと。まさに優良運転者の証です。
軽トラックは、山の暮らしにはなくてはならない相棒のような存在。いつまでも安全に乗り、山の暮らしを送れますように。
ぜひともこの印を描いてほしい!という制作チームの強い思いがあり、下田さんに描いてもらいました。
ろいろい ろいろい。
南川の人たちと出会い、この土地の文化を知る。
歩くことは出会うこと。次はどんな出会いが待っているのでしょう。