土佐町の絵本「ろいろい」。コロナ禍の数年も挟んで、約5年かけた長期プロジェクトとなりました。
完成した「ろいろい」は、ジャバラ型の少し変わった形をした絵本。ながーいページを伸ばすと、そこには土佐町の実在の風景や文化、人々が描かれています。
表面には春と夏の町。裏面には秋と冬。
15回に渡る記事で、絵本「ろいろい」を1ページずつ解説していきます。
秋冬3ページ目は、山で生きる人
ろいろい ろいろい
きをうえるひと そだてるひと
きをきるひと ざいにするひと
やまでいきるひとたちがいる
「はいでるものは はいでえ とびでるものは とびでえ これから ひをいれるぞう」
むしやとりによびかけ のをもやす
だいちをこやす やまのいとなみ
はいでるものは はいでえ
文章中にある「はいでるものは はいでえ とびでるものは とびでえ これから ひをいれるぞう」。
これは、山師である筒井順一郎さんが教えてくれた言葉です。
昔、田がない場所で暮らす人は粟や稗を育て、それを食べて生きてきました。野を焼き、その灰を肥料として作物を作っていた順一郎さんのお父さんが大地に火を入れる前に言っていたのだそう。
「這い出るものは はい出え 飛び出るものは 飛び出え これから 火を入れるぞう」
そう動物や虫たちに呼びかける。
「自分は焼き畑農業をしているわけじゃないけんど、この言葉は身体に染み付いてるんよ」
順一郎さんはそう話してくれました。
山があり、山で生きる。山で生きるため、山で働く。山で生きるものたちに呼びかけ、そのものたちと明日も生きる。
自然と共に生きるとはどういうことなのか?この言葉はその答えの一つを教えてくれる気がします。
↓「4001プロジェクト」でも筒井順一郎さんを撮影させていただきました。
絵を描いてくれた下田昌克さんも、順一郎さんからお話を聞きました。
2019年1月、まだ霜柱が立つ山道を登り、順一郎さんは普段仕事をしている山を案内してくれました。
「生活のために植えた木が、切ってくれ、と言いゆう。木を見ちょったらわかる。木を切ると、残った切り株の栄養が周りの木に行き渡り、木が育つ。切り株はスポンジ状になって雨水をゆっくりと吸い込み、山の保水力を高める」
下田さんは「順一郎さんの話だけでも、一冊の本が作れそう」と話していました。
↓その時の記事はこちら
培われてきた循環
土佐町は四国のほぼ中央に位置し、町の面積の87%が森林という緑ゆたかな町です。森林組合をはじめ企業や自伐型林業を営む人など、山を生業とする人たちは多く、林業は町の重要な産業の一つとなっています。
山の樹木を伐採し、木材を生産することはもちろん、この町には木を植えて育てる人、製材する人、さらにはその材で家を建てる大工さんもいます。
林業は50年、100年先を見据える仕事だと聞いたことがあります。子供、孫の世代、それより先の未だ見えない未来を見つめ、一本ずつ木を植える。そしてその木を育て上げ、切って、使う。何十年何百年という壮大な時間のなかで、その時のそれぞれの現場に人が立ち、仕事をする。その一連の営みが成立してきたのは、磨き上げた技術と知恵を持つ人たちがこの地にいて、綿々と自らの仕事を積み重ねてきたからです。
培われてきたその循環は、この町のかけがえのない財産であると思います。
ろいろい ろいろい。
きをうえるひと そだてるひと
きをきるひと ざいにするひと
土佐町には、山で生きる人たちがいるのです。