5月のある日、今日の夕ごはんのおかずの一品にと近所の産直市で買った切り干し大根を水につけて出かけた。しばらくしてから帰ってくると、切り干し大根はふっくらと水を含んでボウルからはみ出しそうになっていた。
その時、ボウルの中に赤むらさき色をした細い茎のようなものがいくつも一緒に入っていることに気づいた。
何かな?と、切り干し大根を指先でかき分けながらよく見てみると、その細い茎の先には小さな花のようなものがついていた。
ああ、そうやったのか。
これは、いつも桜が散った後に落ちてくる。
新緑の季節から桜の季節へと、頭の中が一気に巻き戻された。
この大根は冬に作られたものではなく春大根で、春の太陽の下で干されたものやった。
きっとこの大根を干した場所のそばには桜の木があったんや。
春の光のなかで風に吹かれながら桜の花びらがちらちらと散り落ちた場所に、千切りされた大根が干されている情景が目の前に見えるようだった。
調べてみると、そのものにはちゃんと名前があった。
「桜蘂(さくらしべ)」。
桜の花が散ったあと、萼(がく)に残った蘂(しべ)が散って落ちることを「桜蘂降る(さくらしべふる)」というのだそうだ。俳句の季語にもなっていた。
桜の花が散ったあとに葉桜の季節が始まると思っていたが、その間にもうひとつ「桜蘂降る」季節があったのだ。
この切り干し大根を作った人に会いたい。
もしその人に会えたら、言いたいことがある。
ひとつ目。「あなたが作った切り干し大根はとても美味しかったです。」
ふたつ目。「あなたの家のそばに桜の木はありますか?」
飯田千津子
とさちようものがたりがあったとは!
とさちょうものがたり
飯田さま
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