引っ越しの準備が本格的に進む2月から3月、僕らの土佐町での11年間がぎゅっと凝縮されたような数週間だった。まるで、この土地での暮らしの総仕上げをしているようだった。
送別の会がいくつも開かれた。名高山集落協定では農家さんたちと日帰り旅行に出かけ、平石消防分団で催された会では、会場の旧平石小学校調理室が地域の方々で埋め尽くされるほどの盛況ぶりだった。名高山子供会育成会では、親しい親子たちと食卓を囲み、心のこもった贈り物までいただいた。高知市オーガニックマーケットの慰労会では、出店者たちと夜通し語り明かした。
驚いたのは、集落活動センター「みんなの森」で開かれた大規模な送別会。大人から子どもまで約100人が集まり、広場ではなぜかパン食い競争やリレー、綱引きで盛り上がり、室内では持ち寄りの料理が並ぶ立食パーティーや屋台まで登場した。この日のために駆けつけてくれた宮城愛さんのライブでは、その優しい歌声に聴き入った。夜はおこぜハウスに移動し、深夜まで充実した時間を過ごした。
それ以外にも、個別に食事や飲みに誘ってくれる友人もいた。
集まった顔ぶれには、いつもの仲間もいれば、久しぶりに会う人もいた。それぞれの顔を見ては、その人と僕らの間に積み重ねてきた記憶を思い出す。あのときの田植えの手伝い、一緒にやった改修作業、子どもたちと行った川遊び。それぞれの思い出が色鮮やかに胸に浮かび、心に染みこんでいく。そんな思い出話もとめどなく出てきて、時間がいくらあっても足りないくらいだった。
そして、これらの会に参加するたびに、僕が思っていた以上に、僕ら家族がこの地域に根付いていたのだと実感した。
会話の中で、
「寂しくなるね」
「また戻っておいでよ」
「帰ってくるんでしょう?」
そんな言葉をかけてくれる人もいる。
僕たちもこの地域が好きだし、これからも遊びに来るつもりでいる。いつか戻る可能性だってゼロじゃない。でも、僕らは今、次の場所へ向かうことを決めた。新しい暮らしのイメージはあるけれど、うまくいくかどうかはわからない。それでも、やってみようと思っている。
だから僕は、この地域と「別れる」とは思ってない。
そりゃ、今までみたいに気軽に会うことはできなくなるけれど、
あの美味しい山水好きなだけ飲むことやどこまでも透明な川で気軽に遊ぶことは難しくなるけれど、
離れることがこの縁を、この繋がりを、一層輝かせている。
僕らはこれからも、この土地とつながっていくつもりだ。物理的な距離ができても、それで関係が途切れるわけじゃない。帰ってきても、帰ってこなくても、これからもよろしくお願いします。そう思うと、不思議と寂しさはない。ただただ、この11年間があり、そこで積み重ねてきたものに感謝する。
写真:友人たちが撮り貯めた僕らとの写真をフォトブックにしてくれた。
Sending gratitude to my dearest friends, especially to Shigemi-chan.