「小春日和にぽっかぽか」 砂浜美術館
美しいキルトが掲載されたこの冊子は、1996年11月に高知県黒潮町の砂浜美術館が発行したものです。砂浜美術館が地元の女性たちと企画した「こどもたちが選ぶ・潮風のキルトコンテスト」への思いを残しておきたいと作った一冊だそうです。
掲載されている受賞作品の中に、土佐町の山中まゆみさんの作品があります。
藍色の布を一つずつ繋ぎ合わせた「旅立ちの時」。
「早明浦の湖底に眠る柿ノ木の部落。山里のその小さな集落には、秋になると赤い実をたわわにつける柿の古木があり、いつの頃からかそう呼ばれるようになっていた。
大きな柿の木をいつでも見ることのできる段々畑には藍が穫れ、綿が育った。庄屋が住む広い屋敷の一棟は機屋になっており、おまつばあさんが主人の寝床をぬくめるために藍染の布を織った。
百年を経ても変わらぬ藍の青。柿ノ木の部落は古木と共に人造の湖の底に沈んでしまったけれど、女たちに愛された藍染はまるで誕生を繰り返すかのように女から女へと手渡され、その度に昔を語りながら生きてきた。」
まゆみさんは、おまつばあさんが藍を育て染めただろう布を川村千枝子さんから手渡されたそうです。川村千枝子さんは、さめうらダムに沈んだ集落の記録を「ふるさと早明浦」と題し、一冊の本にまとめられた方です。まゆみさんは、千枝子さんに聞いたお話と受け取った藍色の布からイメージを膨らませ、このキルトを縫い上げたとのこと。
まゆみさんがこの冊子を見せてくれた時、ちょうど編集部では、連載「さめうらを記す」を始めたところで、不思議なご縁を感じたことでした。さめうらダムに沈んだ集落の人たちの元を訪ね、話を聞き記録する連載で、柿ノ木集落の方からもお話を伺いました。その中の一人、川村雅史さんは川村千枝子さんのご主人です。
ご縁というのは本当に不思議で、尊いものです。この冊子が、実はつながっていたご縁の糸をもう一度結び直してくれました。
*「秋になると赤い実をたわわにつける柿の古木」はこちら