「お蚕さんから糸と綿と」 大西暢夫 アリス館
土佐町の和田地区を訪れた時のこと。和田地区の方から、昔は土佐町でも養蚕が盛んだったと聞きました。その方の母屋の隣には平屋建ての長い小屋があって、昔の農機具などがたくさんしまってありました。
「昔、ここでお蚕さんを飼ってたのよ」
家の周りに桑の木がところどころ生えているのは、蚕を飼っていた名残だと教えてくれました。
「蚕さんが葉を食べる音が夜の間も聞こえてきたのよ」と懐かしそうに話してくれたことを思い出します。
その方が「お蚕さん」と話していたことがとても印象的だったのですが、そう呼ぶ意味がこの本を読んでわかりました。
『「お蚕さん」や「お蚕様」と大切に呼んでいることや、牛や馬と同じように「一頭」と数えることなどから、人びとにとって、大切な存在だったことがわかった』。
このお蚕さんを中心に、人の行き来もたくさんあったことでしょう。
この本の舞台である滋賀と岐阜県にまたがる地域は、以前有数の養蚕の地だったそうですが、今では蚕を育てているのは、表紙の写真の西村さんご家族だけとなってしまったとのこと。土佐町で蚕のお話を聞かせてくれた方も、2年ほど前に山をおりました。
蚕は約5000年前に中国で飼われ始めたそうですが、時を経てその文化が日本へ伝わり、高知県の土佐町までたどり着いたのかと思うと感慨深いものがあります。