住民課の相談
ある日、とさちょうものがたり編集部に土佐町役場住民課からひとつの相談がありました。「森の町営住宅地に車が通り抜けをするので、『車通り抜け禁止』の看板を作れないだろうか?」といったものでした。
実は編集部、「町の看板」(特に役場が出す看板)のことについて数年前から少し思っていたこともあり、住民課とともにひとつの試みをすることにしました。
今回の記事は、その試みの内容と意図についてのお話です。
土佐町の看板を考える
まず単純な疑問として。
こんなに木材の豊富な町だからこそ、木材で看板を作れないか?
町役場が作る看板は、今回の「車通り抜け禁止」に限らず、意外といろいろな場面で必要とされています。詳しく調べたわけではないですが、おそらくその大半が金属またはコンクリートによるもの。
その理由としては、まず第一に「耐用年数が長い」ことがあると思います。また「耐用年数が長い(壊れない)」ということは、「安全性が高い」ということでもあるかと思います。
では、木材は「耐用年数が短い」のか? 一度考えてみましょうか?
ということで、せっかく編集部に来た相談、とさちょうものがたり流の回答を導き出してみました。
木材 x シルクスクリーン = 地元の仕事
まず前提として、「町の住民が作る」「町の材を使う」「町の技を使う」。
ひと言でいえば「町で作ろうよ」ということなのですが、具体的にどうするか?
まず材はもちろん土佐町産の木材。できるだけ丈夫で耐用年数の高いもの。加工するのは町の大工さん。
そして印刷はシルクスクリーンで、どんぐりのメンバーさんが。普段からTシャツ作りに励む彼らが印刷工程を担当します。
最後の設置。これはまた大工さんの手に戻って、プロの手で頑丈に設置してもらいます。
おお!全工程が町の住民の手によって、看板ができるじゃないですか!
木材は作り直せる
ではそもそも金属の看板を作る大きな理由である「耐用年数」。これを木材にするとどうなるのか?
短期間でボロボロになって、朽ちた木材が垂れ下がるような結果になってしまうのか?
実際にやってみて実証してみましょう、というのが今回の「とさちょう看板計画」の趣旨なのですが、とさちょうものがたりはそのような結果になるとは予想していません。
その理由は、
① 大工さんなど町の住民の手によって作ることで、目が届きやすくなる。
② 表面が汚れた木材はカンナで削ってまた使える。
です。
特に大工さんは自身が製作したものをずっと気にして、たびたび確認に訪れたりするそうです。近所に散歩する距離に住んでいる大工さんなら尚更ですよね。
②はとても大きなポイントです。表面が汚れてきた時点で、看板そのものを大工さんの元に戻し、カンナをかけてもらう。すると再びピカピカな木材に生まれ変わります。
そしてそのあとは再びどんぐりがシルクスクリーンで印刷、という同様の工程を踏んで、新品同様の看板に作り替えることが可能なのです。
もし今回のこの「車両通行止め」の看板が役割を終え、必要となくなった場合にも、違う場所で違う看板に作り替えることも可能です。
というわけで、実際の製作の模様です。
今回、まずは地元の大工さんに相談しました。上ノ土居にお住まいの森岡拓実さん。
写真のヒノキの材2枚を2分割し、4枚の看板を作ります。もちろんこの材は土佐町の山で取れたもの。森の良い匂いがします。
この材の厚さは約4cmあります。「古くなったらカンナで表面を削って新しいものに生まれ変わる」ために必要な厚さです。
切った木材の表面にカンナをかけます。ツルッツルの新しい表面になりました。
場面変わって‥
ここからはどんぐりのシルクスクリーン・チームの出番です。
普段はTシャツを作っている彼らが、今回は木材に印刷します。
印刷準備中。板の上に置いてあるのは透明なシートに印刷した製版用のものです。
位置を合わせて‥
Tシャツとはひと味違う印刷風景。場所はとさちょうものがたり編集部の玄関で行いました。
一枚できました!
これを4枚作り、保護用にウレタン塗料を繰り返し吹いたあと、設置の工程に進みました。
設置する
2021年10月28日、夕暮れ時。準備のできた4枚を携えて、大工の森岡拓実さんと現場へ。
木材の裏面には、設置のために穴を開ける必要がないように、拓実さんが事前に金具をつけてくれています。
なので現場では微調整とボルトを閉める作業です。
作業中の模様。木材の看板、どうですか?
そして4箇所に4枚の看板の設置が完了! みなさんどう思いますか?
あとは経年による変化がどう出るか。これは長期間の目線を持って、丁寧に観察していこうと思います。
林業が盛んな土佐町で、町産の木材を使ってみんなで暮らしを作っていく。そんなことの小さな一歩、のお話でした!