昔、土佐郡土佐町の山中に大きな山猫が居ったそうな。
山から出て来て人を化かしたり、家畜を取って喰うたりして、村人を困らせた。
何んとかして山猫を退治せにゃいかんと村人達は相談したが、山猫は仲々人目に見付からない。
そこで土佐町伊勢川の猟の名人次郎スと太郎スと云う仲の良い猟師二人に頼んで退治して貰うことにしたと。
次郎スと太郎スは毎晩毎晩山へ行き山猫の出て来るのを待ったが、いくら待っても待っても山猫は出て来ざったそうな。
とうとう節分の晩になったと。
次郎スと太郎スは今夜こそは退治しようと話合って山へ行って少し待っていたら、大木の倒れた上へ大きな山猫が二匹上がって、
今夜は節分、大年の夜ぢゃ。伊勢川次郎スも来まい、太郎スも来まいもん
と云うて踊り始めた所を二人はすかさず射止めて見事退治したそうな。
それで村人達も安心して暮せるように成ったと云う事じゃがのーし。
昔はそんな事もあっつろーかのーし。
山下忠文 「土佐の民話 156号 土佐民話の会」
今回の「山猫退治」は、土佐民話の会が月一回発行していた雑誌「土佐の民話」156号(昭和59年12月1日発行)より転載しています。発行人である市原鱗一郎氏に快く許諾をいただいたことで実現しました。現在の私たちが多くの民話に触れることができるのも、各地に伝わっている民話を収集し出版するという、このような先人の仕事に負うところが多いことと実感します。改めて感謝を伝えたく思います。