受け継いできた伝統を大事にしながら、新しい視点を尊重し、さらに融和を図るというのは、簡単そうに思えてじつは難しいことだ。
縁もゆかりもない土地に移り住んできた移住者たちのフットワークの軽さもたいしたものだが、彼らを積極的に受け入れている嶺北の人々は懐が深いのだろう。
異なる価値観が交わったとき、そこには新たな文化が発展する土壌がつくられる。
2017年4月から土佐町で暮らし始めたラヨシュ・ジョコシュも、嶺北に移り住んだひとりだ。1980年6月4日うまれの37歳。中央ヨーロッパに位置するハンガリーからやってきた。
ハンガリーは、西はオーストリアとスロベニアに接し、北はスロバキア、東がウクライナにルーマニア、南はセルビアとクロアチアに囲まれた内陸国で、日本との時差はマイナス7時間。
日本からの直行便はなく、成田空港からだとヨーロッパ経由で約16時間から20時間前後かかる。
はるか遠きハンガリーからラヨシュがわざわざ嶺北にやってきたのには、もちろん理由がある。
この地にカヌー文化を根付かせるために、はるばるやってきたのだ。
「ハンガリーではカヌーは国民的スポーツ」
「ハンガリーではカヌーは国民的スポーツなんです。街ごとにカヌークラブがあって、私も小学生のときにカヌーを始めました。
私が入ったクラブでは、最低でも200メートルを泳げないとカヌーに乗せてもらえなかったから、まずはドナウ川でスイムをマスターするところから、私のキャリアはスタートしたんですよ(笑)」
(敬称略)
つづく
文:芦部聡