土佐町平石地区に暮らす渡貫洋介さん。
洋介さんは子嶺麻さんと「むかし暮らしの宿 笹のいえ」という宿を営んでいます。
四季それぞれの仕事を丁寧に積み重ねる笹のいえの暮らしはどこか懐かしく、どこかほっとさせてくれる存在です。
とさちょうものがたりの「笹のいえ」の連載を楽しみにしている人は多いのではないでしょうか。
笹のいえの食を支えるのは「お米」。毎日子どもたちがお腹いっぱい食べるお米はもちろん、自家製の米麹は味噌を作る時にも必要です。子嶺麻さんが米飴を作っていた年もありました。
洋介さんに畦付けを見せてもらった日は何日か雨が続いた次の日で、田んぼの水が多く土も柔らかい状態でした。本当はもう少し日を置き土の状態が良くなってから畦を作った方が良かったのだと思いますが、洋介さんは次の日から家をしばらく空ける予定だったこともあって、この日に畦付けを見せてくれました。
洋介さんは鍬を肩に二本担いできました。
以前取材した相川地区の清敏さんは刃が3本の鍬で畦をつけていましたが、洋介さんの鍬は5本です。
平鍬と又鍬
「鍬の刃が三又四又というのはよくあるけれど、又が五つあるのは土佐町ではじめて見た。平石地区の方に『畔付けには五又がえい』って教えてもらって、笹のいえの物置を探したらこれを見つけたのでお借りしてる。」
地域や人によって、使う道具もそれぞれなのでしょうか。同じ町の中でもその場所によって違うのは面白いなと思います。
「高知の鍬は“土佐鍬”とも言うし、千葉やったら“房総鍬”とか地域の名前が付いているものもあった。
地域によって名前も違うし形も違う。山の畑って小石が多いから、土佐鍬の角っこがちょっと出っ張ってるでしょ?ここで小石をチョンチョン、って弾けるようになってるらしくて。」
(洋介さんは千葉県から土佐町へ移り住んで来ました。千葉の平野部の多くの畑では小石がほぼないそうです。)
「畦をつける前に、去年の草がそのまま生えてるところを土ごとシャベルで削りとる。今、『畦切り』っていう草を削った状態。(洋介さんの後ろに見えるのが『畦切り』した畦。)機械が入らなかった角っこに又鍬で一回か二回土を置いて、そのあと面を平す。」
畦切りしたところに畦を付けていく。
「土を寄せるだけでそれでオッケーという人もいるし、どこから水が漏れているか分かりやすいように、畔の表面を平鍬で撫ぜて綺麗に仕上げる人もいる。百姓に美学ありだよね。」
「今日は、昨日の雨で水があり過ぎてベチャーとしちゃう。」
そう言いながら、洋介さんは畦を付けていきます。
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今年から笹のいえの田んぼの面積が増えたのだそうです。
「2反半はちょっと多いなと思ってやりきれないと申し訳ないから断ろうかと思ったけど、子どもも大きくなるし、物々交換を増やしたいなと思って。お手伝いをしてもらったらお米で払う、とか。そしたら食べる人にはストーリーがあるから喜ぶよね。」
こんな風に作ったんだよと話す人も、こんな風に作られたのかと聞いて味わう人も、その方がきっと楽しい。
後ろに見える母屋には鯉のぼりがかかっています。
畦のつけ方も、使う道具も、人それぞれ。土地によっても違います。
こうあらねばばならないなんてことは、めったにない(ほとんどない?)のかもしれないな、と洋介さんと話していて思いました。