(前編)
ふと視線をあげると鶏小屋の屋根にからまる蔓に鈴なりのアケビがなっていた。まだ緑色で食べごろではないけど「秋には紫になるよ」とおじいちゃんは教えてくれた。
もう山の向こうに沈んだ太陽が山の稜線にオレンジ色の線を引いているのが見えた。そばにはしそ、生姜、リュウキュウ。これから実をつける秋豆が育っている。
おじいちゃんとおばあちゃんの足跡を感じる畑。ゆたかだなあと思う。
スイカ畑にはいくつもプラスチックのケースやカゴがひっくり返っている。トランプの神経衰弱みたいにこれはどうかな?と箱を開けていくと、中にスイカが入っている。
まだ小さいのもあるし、もう傷んでいるのもあるし、ちょうどいい大きさのもある。
「こうやっておかんとたぬきが食べにくるけ。」とおじいちゃん。
さっき食べたスイカもこのケースに守られながら、はち切れんばかりに育ったのだとわかった。
息子が畑に飛び込むように入って、ケースを返していく。
「おじいちゃん、これ、どうやろ?」
「ん〜。それはもうちょっとおいちょこうか。」
もう空の色が夕暮れへと変わり始めていた。杖をつきながら見守ってくれてるおじいちゃんはきっとこの日を楽しみにしていくれていたのだと思う。このおじいちゃんのまなざしをちゃんと覚えておきたいと思いながら私はそばにいた。
収穫した2つのスイカを息子と私で抱えて畑を降りる。
ずっしりと重い。きっとこのスイカも美味しいに決まってる。
スイカを抱えてまたおじいちゃんの家に戻った。
おじいちゃんは「池に入れちょいたらえい。これは清水やけ、よーく冷えるんよ」と言った。
池のそばまでスイカを抱えて行ってどうやって入れたらいいのかと迷ってると、「そのまま!ドボーン!」とおじいちゃんは笑った。
ドボーーン!
スイカは音を立てて池の底の方まで沈んでから、くるくるくると回りながら浮かんできた。
2つとも池へ入れるとスイカのそばに鯉が寄ってくる。時々つついたり体を寄せたりしながらスイカを揺らす。
この鯉にも食べたスイカの皮をあげると、残っている赤いところを喜んで食べる。我先にひとつの皮に頭を寄せ押し合いへし合いしながら、口をパクパクさせてスイカに夢中になっている。
おじいちゃんは「こうやって冷やしといたらえい。また明日取りにおいでや」と言った。
お言葉に甘えてそうさせてもらうことにした。
そして最初に切ったスイカの半分をお土産にと持たせてくれた。
それから毎日のようにスイカを食べた。そのたびにこの日のことを思い出す。
「これ、おじいちゃんちのスイカ!」と言いながら子どもたちと頬張った。
今年、一度もスイカを買うことはなかった。
おじいちゃんは、またもう少ししたらきっと「スイカ取りにきや」って言ってくれるだろう。
また畑へ取りに行って、一緒にスイカを食べたいと思う。
(続編に続く)