よもぎといえば、よもぎ餅やもぐさを思い浮かべるだろう。
私もそうだが、子どもの頃のよもぎの思い出もまた格別である。
渓流に潜って魚をとりに行く途中には、よもぎの葉をしごいて集め、それを握って川へ走った。そして川で、水に入る前によもぎを揉んで綿のようにし、それでまず水中眼鏡のレンズを磨いた。そうすれば汚れが落ち、水中で曇らない。
そして、よもぎの葉の汁が薄くなるまで揉んで丸め、耳栓にする。綿も使ったが、綿は水を吸って緩みやすく、耳に水が入りやすかった。今のように上等な耳栓がある時代ではなかった。
流れのきついところでは、鼻にも栓をした。そのよもぎが水を吸って、鼻からのどによもぎの汁が流れ込むこともあった。苦い感触が身体中に拡がったが、それでも大きな不快感はなかった。
耳や鼻に栓をしただけではない。怪我の応急手当ての薬としても使った。この方の効用が大きかった。
道路から藪をくぐって渓流に下りる時、竹の切り株で足を切ったり、削ぎ竹の先が刺さったり、川でガラスの破片を踏んだりすることがよくあった。医者に行く必要がある時は、大体自分でも判断がつくので、すぐに引き返して村の医者のところに行き、傷口を縫ってもらったりした。
そういう怪我は別として、大体はよもぎで処置をした。
よもぎの葉を揉んで、それを傷口に当てる。汁が少ししみるが、我慢して押しつけていると、大体はしばらくして血が止まる。そして川に入る。血が出たらまたよもぎ汁をつける。そういうことをくり返した。
今はすべり止めのフェルトが付いたウェットスーツや長靴があって安全だが、当時は素足に藁ぞうりばきであった。当然傷を負うことも多かった。そんな時に必ずよもぎの葉を揉んでつけた。
野蛮なと言えば野蛮だが、山や川などでのよもぎによる応急処置は、古くから言い伝えられていたようだ。
幸い、よもぎの汁をつけた傷が一度も化膿せずに来た。
最近は傷薬を持って、山川へ行く人が多い。