「水を縫う」 寺地はるな著 集英社
日々のくらしのなかには、たくさんの「なのに」が存在しています。いわく日本人なのに(…)、外国人なのに(…)、高校生なのに(…)、男の子なのに(…)、女の子なのに(…)、親なのに(…)…。
男の子なのに刺繍が好きな高校男子の清澄(きよすみ)。女の子なのにかわいいものが苦手な水(み)青(お)。母親なのに子どもよりも仕事を優先するさつ子。父親なのに子どもっぽく頼りない全(ぜん)…。 お互いを思いやっているのに、うまく伝えられないもどかしさ。家族だからこその、決めつけや見くびり。
「なのに」に傷づけられながらも、自分の生き方を変えることはよしとしない家族の姿が、結婚を決めた水青をキーパーソンに描かれています。
章ごとに語り手(視点)を変えて語られる物語は、いつしか家族にしか織ることのできない複雑なタペストリーとなり、読み手に新しい家族の在り方を見せてくれます。