8月最後の日曜日、夕食を食べ終わった頃、外で大きな音がした。森地区で花火の打ち上げが始まったのだ。
土佐町では毎年7月末から8月にかけて、町内の各地域でお祭りが開かれる。昨年と今年は、新型コロナウィルスのため全てのお祭りが中止になった。夏の風物詩であるお祭りがなくなってみると寂しいものだ。せめて花火だけでもと、相川や石原地区など、各地域で打ち上げられている。
小走りで見晴らしの良い場所へ向かうと、暗闇からくぐもった声が聞こえてきた。もうすでに何人かの人が空を見上げているようだった。
すぐそばにある「新井堰」と呼ばれる水路には、山からの水が静かにとめどなく流れている。その水面には淡い光がちらちらと揺らめいていた。
花火は打ち上がる。
家の前の椅子に座って空を見上げている人、うちわを仰ぎながら隣の人と言葉を交わしている人。いく人かの子どもの声が遠くなったり近くなったり、行ったり来たりしながら飛び跳ねているようだった。
花火が打ち上がるたび、集まっている人の輪郭と、すぐそばの山の稜線が見える。
最後の花火、いくつもの滝のような白い筋がきらめきながら流れ落ちると、拍手があちこちで起こった。
暗闇の中に響く拍手の音は、外出しにくく、人と会うこともままならないコロナ禍のなか、誰もが懸命に自分の暮らしを守り、保とうとしていることを実感させた。
来年はちょうちんの灯りのもと、皆で花火を見上げられたらうれしい。