「作家の猫」 平凡社
のっぴきならない事情で、居候していた猫を手放しました。その猫とは忘れもしない不思議な出逢いかたでした。
息子がクリスマスプレゼントに「猫がほしい」と話した30分後に、家の駐車場にその猫は現れました。息子もそれには驚き、サンタさんってほんまにおるんやなぁ!と大喜び。それから、その猫との暮らしがはじまりました。
その昔、実家で飼っていた猫達に何度となく痛い目に合わされた経験があり、猫を飼うことに対して正直あまり気が進みませんでした。突然現れたその猫に対しても【飼う】というより【居候している】といった一定の心の距離を保ちつつ暮らしていました。
先日。その猫を新しい飼い主に引き渡すとき、息子は当然渡したがらず必死の抵抗をしましたが、私はわりとあっさりとした気持ちで見送れました。それから10日ほど経ち、新天地で暮らすその猫の様子を見にいく機会があり、のびのびとした環境で幸せそうに暮らすその猫を抱いたとたん、えも言われぬ寂しさに襲われたのです。猫の新たな幸せを確認したと同時にもう本当にここへ戻ってこないこと、もう気軽に抱いたり、撫でたりできないということに遅ればせながら気づいてしまったのです。
そこからずーっと車内で猫の話をしつづけ、ケータイのカメラロールに写った猫の写真を見返しまくり、仕舞いにはすこしリアルなつくりで重みのある猫のぬいぐるみまでポチッていました。。。 ‥わたし、こんなに猫好きやったん。。。?
『猫には不思議な魅力がある。』 よく言われるその言葉どおり魔力にかかった人たちをたくさん見てきて、なにより自分の父は取り憑かれたかのように猫に執着し、今まで自分はその呪いにかからず済んでいたのに、猫を失って強烈に自分にもその言葉の意味を知る日が来てしまうとは、、、 その猫は天井裏を走っていたねずみを一掃し、子どもたちの遊び相手、孤独を慰め、息子が一人で留守番、トイレにいけるようになったのもその猫のおかげです。短い時間にたくさんのものをわれわれに与えてくれました。心より感謝です。
そしてまた大の苦手なねずみが現れないかとビクビクする私に戻り、家のそこかしこに確かに存在した痕跡と残像、在宅時間が長かった者どうしの二人だけの思い出に浸りながらいつかまた猫と暮らせる日を夢見て、ひざにポチった猫のぬいぐるみを乗せてページをめくるのです。
ありがとう、どんち。 さよなら、どんち。