今日は、みつば保育園のそらぐみの子どもたちと絵を描く日。
昨日、下田さんと一緒に過ごしていたこともあって子どもたちは本当にうれしそうに迎えてくれた。ホールに広げられた紙は大きさ2.72m×5.5m。
下田さんが紙の上に膝をついて、這うようにクジラの絵を描き始めると「すごい!」「クジラや!」「似いちゅう!」子どもたちから歓声があがる。
子どもたちも一緒に描き始める。
カニや小さな魚、大きな魚、うさぎ、木、星、お花、かめのお誕生日会…。
昨日、下田さんに絵を描いてもらった澪くん。
何色も色を使って力強く池のような形を描き、黙々と色を重ねて塗っていた。
その姿を見ながら先生は言った。
「普段は自分から手を挙げたりすることはあまりないけれど、下田さんに『絵を描いてほしい人!』と聞かれて手を挙げている姿を見た時はびっくりして…。とても嬉しかった。自分の絵を描いてもらって、今日は下田さんのようにたくさんの色を使って描いて…。下田さんと過ごした2日間は、もしかしたらこの子にとって転換期になるのかもしれないです。」
ひとりの大人との出会いが子どものこれからに何かのきっかけを与えるかもしれない。
そう思うと、色々な大人がいること、色々な生き方があること、色々なあり方があっていいんだと思えるような機会を作ってあげたいと思う。
下田さんは絵を描き終わると聞いた。
「僕、みんなに声をかけられていたかな?誰か忘れたりしてなかったかな?」
園長先生が「大丈夫ですよ。」と言うと安心したように「よかった。」とつぶやいた。
下田さんのそういうところをとても素敵だなと思う。
下田さんが東京へ戻った2日後のこと。
朝、保育園に行くと、そらぐみの女の子が目を丸くしながらお母さんのところへ飛び跳ねるようにしてやって来た。
「お母さん!下田さんの本、借りられたよ!」
保育園では下田さんの絵本を購入し、貸し出しできるようにしていた。誰かが絵本を返したら、子どもたちは我先にと借りていくのだそうだ。
やっと下田さんの本を借りられたことがジャンプするくらいうれしいんだ!なんて素敵なんだろう!
和田守也土佐町長の絵も描いた。
そのあと、明日一緒に絵を描く2年生と顔合わせのために土佐町小学校へ向かった。
担任の先生の話によると、子どもたちにとって下田さんは憧れの存在で、会える日を指折り数えて楽しみにしていたそうだ。実はこの時、約束の時間より30分ほど遅れてしまった。教室に入ると「やっと会えた!待ってました!」というエネルギーで溢れそうになっていた。
近藤稜真くんの絵を描くことになり、子どもたちが下田さんと稜真くんを取り囲む。
絵を描く下田さんと子どもたちは、まるで昨日も会っていたかのように話をしている。
子どもたちと下田さんの間には「壁」なんてなかった。
会えてよかった!という気持ちのままぶつかっていく子どもたちと、その気持ちをそのまま受け取る下田さんの姿がとてもいいなと思った。
田井地区の澤田弥生さんを訪ねた。
土佐町社会福祉協議会の長野通世さんが一緒に付き添ってくれた。
弥生さんは洋服を仕立てる仕事をしていただけあってとてもおしゃれだった。
土佐町の「すみれ楽団」をつくった人であり、カメラにも詳しい。
103歳の現在一人暮らしで、自分で買い物へ行き食事も作っているのだそうだ。
家の玄関先で弥生さんと下田さんが向き合う。
しん、と静かな空間。
弥生さんのまばたきの音も聞こえそうなほどだった。
103歳。
「103年」という時間を積み重ねて来た弥生さんの姿。
ここに自分がいるのだという気配があった。
積み重ねてきたものは、その人の存在そのものに現れる。
下田さんが絵を描く姿を見つめる弥生さんのまなざしは、強く、優しかった。
絵が完成した時、優しく笑って「よう似いちゅう。」ととても喜んでいた。
家の玄関先に立ち、手を振りながら見えなくなるまで見送ってくれた。
弥生さんが立っている向こうから金色の夕焼けの光がさしていた。
その風景を私はずっと忘れないと思う。
下田さんはあとから、弥生さんは「たたかっている人の気配がした。」と言った。
夜は笹のいえで美味しい夕ごはんをいただいた。ここはいつ来ても気持ちがいい場所。
下田さんは子どもたちに画用紙を渡し、自分の絵を描いてもらった。
つづく