鳥山百合子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「はるかぜさんといっしょに」 にしまきかやこ こぐま社

山のあちらこちらに桜色が加わり、時々ウグイスの声も聞こえるようになりました。土佐町はもうすっかり春です!

春らしい風を感じながら歩いていると、足元にはたんぽぽ、オオイヌノフグリ、なずな、つくし、桃。庭先にはムスカリやチューリップ。色とりどりの花たちが、足取りを軽くしてくれます。

この絵本の主人公「こんちゃん」は、ふーっと風を吹かせる「はるかぜさん」と出会って、はるかぜさんについていきます。このはるかぜさん、何とも気持ち良い風を吹かせているようで、いつの間にかこんちゃんに続き、町の人たちも長い長い行列に。歩いて歩いて、みんなでたどり着いた丘でひと眠り。

ああ、いいなあ!私もこんな丘で、大の字になって寝てみたい。

春は、心も身体も開いていく季節なのだそうです。人間をそうさせるのは、はるかぜさんが新たな気持ち良い風を運んできてくれるからかもしれないですね。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「のせてのせて」 松谷みよ子 著,  東光寺啓 絵 童心社

1969年に出版され、もう50年以上読み継がれている「のせてのせて」。私が子供の時、母に何度も読んでもらい、私も3人の子供たちに繰り返し読んだ一冊です。

「まこちゃん」が赤い自動車に乗って出発、途中で「ストップ!のせてのせて」とうさぎやくま、ネズミの大家族が加わっていきます。その姿が何とも楽しげ。

ところが一転、ページは真っ暗。トンネルに突入して…さあ、どうなるか?

トンネルを抜けた先、「でた!おひさまだ!」という言葉に子供たちが笑顔になるのが好きでした。その顔見たさにこの本を読んでいたくらい。

何回も読んで知っているはずなのに、お話の世界を何度も行ったり来たりできる子供の姿が何とも愛おしい。

大切な一冊です。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「みんなでこんにゃくづくり」 菊池日出夫 福音館書店

土佐町で暮らし始めた頃、近所のおばあちゃんが家にやってきて「こんにゃく作ったき、食べや」とビニール袋を手渡してくれた。袋の中には、ソフトボール位の大きさの丸いものが幾つも入っていてずっしり重く、ほかほかと温かい。

これがこんにゃく!丸い

それまでこんにゃくといえば四角い板こんにゃくしか知らなかった。さらに、おばあちゃんは「そのまま薄く切って、刺身みたいにしょうゆをちょこっとつけて食べてみや」という。

刺身!

こんにゃくは煮物にしたり炒めたり、火を入れて食べるものだと思っていた。何と生で食べられるとは!その日の夕ごはんに食べたこんにゃくの刺身は絶品で、子供たちの箸も止まらない。あっという間に平らげた。

絵本「みんなでこんにゃくづくり」は、おじいちゃんやおばあちゃんとこんにゃく芋を育て、みんなでこんにゃくを作るお話だ。土佐町で暮らし始める前から、どこか遠い所の話だと思いながらページをめくって眺めていた「こんにゃくづくり」。それをリアルにしている人が現れたのはかなりの衝撃だった。

後日、おばあちゃんがこんにゃくを作るところを見せてもらった。掘っておいた芋をぐつぐつ茹でて皮を剥き、ドロドロになるまでミキサーにかける。浅木の灰を水と混ぜ、布で漉した灰汁を入れると立ち現れるこんにゃくの香り。混ぜ続けると次第に固まってくる。まるで化学実験だ。杉やヒノキの灰汁では固まらないと聞いて、この地の人たちの試行錯誤が見えるようだった。

土が足元にある暮らしは実にゆたかだ。身の回りにあるものを工夫して使って何でも作る。手間も時間もかかるが、この地で引き継がれてきた知恵に、この場所で生きるという強い意志を感じる。

 

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読んでほしい

福寿草を見においで

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「福寿草がきれいに咲いちゅうき、よかったら見にいらっしゃいや」

土佐町の和田勝幸さんからお電話をいただき、伺いました。勝幸さんの庭に一歩入ると、明るく澄んだ黄色の福寿草がたくさん咲いていました。

 

幸せを招く花

福寿草は「幸せを招く花」と呼ばれています。江戸時代には「春を一番に伝える花」として「福告ぐ草(ふくつぐそう)」と呼ばれていたとか。呼びやすいように「告ぐ」を「寿」に変え、福寿草となったそうです。

 

この日はとても暖かい日で、福寿草たちはとても気持ちよさそう。写真右側に写っている小さな丸いボールのようなものが種で、これがポロリと落ち、新しい芽となるそうです。

 

毎年、勝幸さんは増えた株を庭のあちこちに植え替えてきました。道に面した場所や畑の片隅…。他には水仙やさくら草も咲いています。もうすっかり春を迎えた勝幸さんの庭です。

 

和田勝幸さん・袈裟尾さん

連絡をくれた和田勝幸さんと奥さまの袈裟尾さん。わざわざ「見においで」と連絡してくれたことが、とても嬉しかったです。勝幸さんから春の幸せをいただきました。

これから福寿草を見つけたら、勝幸さんのお顔を思い浮かべると思います。

勝幸さん、ありがとうございました!

 

 

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私の一冊

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「いちごばたけのちいさなおばあさん」 わたりむつこ作, 中谷千代子絵 福音館書店

土佐町のいちご屋さん「やまびこ農園」さんにいちごが並び始めると、いつも「いちごばたけのちいさなおばあさん」のことを思い出します。

いちご畑の土の中に住んでいるおばあさんの仕事は、いちごの実に赤い色をつけること。土の中のみどりの石を掘り出し粉にして、お日さまの光をたっぷり吸いこんだ水に注ぎ込むと赤い色が出来上がる。おばあさんはその赤い水をせっせと塗って、赤いいちごを作るのです。

これは母に何度も読んでもらったお話で、幼い頃、私はこういった世界をみじんも疑っていませんでした。いつからか、いちご畑におばあさんはいないと知りますが、そんなことはどうでもよく、いちごばたけのおばあさんはやっぱりいるのだと、春先のいちごを見るたび思います。

やまびこ農園さんのいちごは、びっくりする程甘くてジューシー。毎年ジャム用のいちごを分けてもらってジャムを作ったり、砂糖をまぶして冷凍し、牛乳と一緒にミキサーにかけていちごシェイクにするのが楽しみです。

いちごばたけのちいさなおばあさん、今年も美味しいいちごをいたただきます。ありがとう。

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私の一冊

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「運動脳」 アンデシュ・ハンセン サンマーク出版

情けないことに、私は運動しようとしても続いた試しがない。毎日ランニングをしている友人が「走ることは歯磨きと一緒。走らないと気持ち悪い」と話すのを聞いて心底かっこいいと感じ、そんなふうに言ってみたいと思い続けて今に至る。

そんな私でも、たま〜に気が向いた時に走ったり、ほんの少しだけヨガをやるだけでも、モヤがかかっていた頭の中がクリアになり、前向きに何でもできそうな気持ちになることは知っている。

運動するとなぜ心地よい気分になるのか?その秘密をこの本は教えてくれた。

それは「私たちの祖先が、狩猟や住む場所を探すときに走っていたから」だという。

人間の脳は原始時代からほぼ変化していないのだそうだ。激変したのは生活習慣で、人間は物に囲まれて快適に暮らし、食料もボタン一つで自宅まで運んできてくれるようになり、身体を動かさなくなった。そうなると、狩猟仕様にできている脳にとっては具合が悪い。脳が求める運動をしないと調子が悪くなる。気持ちが沈み、意欲減退、記憶力低下…。大なり小なり日々のストレスに気持ちが滅入る。まさに今の私。すごくよく分かる。

でも運動することで、使われていなかった神経が繋がり、血が巡る。感情を制御している神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、3つの脳内物質たちを増やすことができるそうだ。

・セロトニン…悩みや不安を和らげる
・ノルアドレナリン…やる気や集中力を促す
・ドーパミン…意欲や活力を促す

この3つが増えることで「あなたの気分が変わる」という。

狩猟民族のご先祖さまの姿と非常にわかりやすい科学的な説明が、私の背中を押してくれた。

この前の日曜日に1時間ほど歩いた。単純かもしれないがとても気持ちがよくて、清々しい気持ちになった。こんな気持ちは久しぶりだった。

週に3回くらいでも効果があるらしい。ランニングやウォーキング、サイクリングもいいそうだ。まずはウォーキングからやってみよう。脳内に3つの物質を増やし、この鬱々とした気持ちを追い払ってしまいたい。

 

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「はなをくんくん」 ルース・クラウス文 ,マーク・シーモント絵, きじまはじめ訳 福音館書店

光が春めいていることに気づく今日この頃。

日中は暖かくてウキウキし、けれど翌日はまさかの雪!こうやって冬と春の間を行ったり来たりしながら、いつの間にかすっかり春を迎えているのでしょう。

1967年にアメリカで出版された絵本「はなをくんくん」。冬眠中の動物や虫たちが目を覚まし、はなをくんくんさせながら何かに向かってかけていく。はなをくんくん、はなをくんくん。雪の中、たどりついた場所には花がひとつ咲いている。

動物も森もモノクロなのに、みんなが見つけた花は鮮やかな黄色。笑って踊って「うわい!」と叫ぶ。春はもうすぐ!その喜びが伝わってきます。

この本の原題は「The Happy Day」。春が待ち遠しい今この時期に、読みたい絵本です。

 

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「もりのかくれんぼう」 末吉暁子作, 林明子絵 偕成社

このお話の主人公けいこが家に帰る途中、お兄ちゃんを追いかけて生垣の下をくぐり抜けると、そこには金色に色づいた森が広がっていました。

けいこは、この森の「もりのかくれんぼう」とかくれんぼをすることに。きつねやりす、くまやトカゲなど森の動物たちも加わって、みんなであっちに隠れたりこっちに隠れたり。(ページをめくりながら、「あ!ここにいる!」と見つけるのが楽しいです)

くまが鬼になった時、けいことかくれんぼうはしげみの中に潜りこみます。「いきをころして、じっとして、みつからないように、いつまでも…」。

ふと聞こえてくるお兄ちゃんの歌声。そっと顔をあげると、目の前にお兄ちゃんが立っていて、けいこの住んでいる団地が広がっています。ところどころに金色の森に生えていた木が立っていて、団地ができる前はあの森だっただろうことを想像させます。

この本が出版されたのは1978(昭和53)年。昭和30年代から昭和40年代にかけて、高度経済成長期にあわせて団地の建設が盛んに行われたため、森を切り開いて作った団地に住んでいる子供たちも多かったことでしょう。

「どこかできっと またかくれんぼうさんにあえる けいこはそんなきがしてなりませんでした」

かくれんぼうや森の動物たちはどこへ行ったのか。当時も今も、この絵本を読んだ子供たちはどんなことを感じるのでしょう。

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私の一冊

鳥山百合子

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「THE NORTH WOODS」 大竹英洋 クレヴィス

「THE NORTH WOODS」は北米大陸に広がる森林地帯の呼称で、世界最大級の原生林の一つ。オオカミやバイソンをはじめ、ホッキョクグマやムースなど野生動物が多く生息し、7000年以上昔から、先住民が狩猟採集の暮らしを営んできた土地です。

写真家大竹英洋さんは20年以上この地をフィールドとし、撮影を続けてきました。その集大成としての写真集がこの「THE NORTH WOODS」です。

この一冊から、この土地に生きる動物たちの息遣いや、この土地に吹いているだろう風の音が聞こえてくるような気がします。

動物だけでなく、アカリスが岩の上に残した松ぼっくりの殻や、雪の上に残されたワタリガラスの羽の模様、湖に張ったガラスのような薄氷など、一見何気ない、でもこの地で重ねられている瞬間を映した写真の数々は、私たちが生きている大地は美しく尊いことを思い出させてくれます。

この土地の先住民アニシナべの民であるソファイア・ラブロースカスさんが、この写真集に文章を寄せていますが、その中に「彼は、わたしたちに、そして、多くのコミュニティとそのテリトリーに、いつも多大なる敬意をはらってきました」という一文があります。

アニシナべの民は、祖先からの知恵や教えを口伝えの物語として受け継いでおり、物語を語り、聞き入ることは未来への命綱だといいます。ソファイアさんは「その物語を信じてくれてありがとう」と大竹さんに伝えています。

その一文を読んだ時、この写真集から伝わってくるのは「THE NORTH WOODS」という土地の素晴らしさはもちろん、何よりも大竹さんの人間性なんだとあらためて思いました。

ある場所に足を踏み入れるとき、この地で脈々と引き継がれてきた営みや文化に敬意を払うこと。決して驕り高ぶらず、謙虚であること。目の前の人と丁寧に向き合うこと。その姿勢は人との関係を作り、互いを理解するためにとても大切なことのように思います。

「THE NORTH WOODS」。今この瞬間もこの土地で動物たちは生き、太古の昔から暮らし続けている人たちがいる。そう思うだけで、ちょっと前を向く元気をもらいます。

 

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読んでほしい

お米の精米

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土佐町内では、農協やスーパーの横に精米所が設置されています。

土佐町では農家さんでなくとも、他の仕事をしながらお米を育てている人は多く「じぶんく(自分のところ)で食べるお米は自分で作る」、すなわちお米の自給率は相当高いと思われます。

お米を作っている人と話していると、「先祖代々の田を自分の代で手放すわけにはいかない」という思いと、「じぶんくで作ったお米はうまい」という誇りを持っていることを感じます。

収穫したお米は玄米のまま、紙の米袋に入れて各家の保冷庫で保存。その都度精米所で精米して食べている人が多いようです。

 

30㎏のお米

かくいう私は、土佐町の農家さんからお米を購入させてもらっています。このお米がツヤツヤで甘く、「ああ、お米って美味しいなあ〜」としみじみします。毎食このお米が食べられるなんて相当な贅沢です。大体2ヶ月に一回くらい、30㎏を届けてもらっています。

そして精米所に行き、精米します。30㎏は相当気合を入れないと持ち上がらない重さです。ぎっくり腰にならないように注意を払いつつ、よろよろしながら、ヨイショ!と自ら掛け声をかけ、機械に玄米を投入。30㎏精米する場合は、300円お金を入れます。

白米にするか、7分米か3分米かなど、お米の精米度合いを選んでボタンを押すと、ゴーッという大きな音がして精米がスタート。

もう既に、お米の甘い香りが広がっていきます。

 

1俵、ここにあり

土佐町に来て驚いたことの一つに「お米の単位」があります。スーパーや宅配で販売されているお米の多くは5㎏、または10㎏の袋でそれが当たり前だと思っていました。

土佐町のスーパーでも、5㎏、10㎏の袋は売っていますが、地元の人の間でやりとりされるお米は30㎏の米袋。この30㎏の米袋を1袋(いったい)と呼び、これが多くの人にとっての一単位になっています。さらに、この30kgの米袋が2袋(にたい)になると「1俵(いっぴょう)」となります。

「いっぴょう」!!

昔話で聞いたことがあった「いっぴょう」、おじいさんとおばあさんが藁で編んだ俵をつい想像してしまいますが、土佐町では「1俵」という単位もまだまだ現役。さすが米どころと言われるだけあります。

 

精米終了

精米が終わると、目の前には山のようなほかほかのお米が。手を入れるとぬくぬくと暖かくて、まるでこたつのよう。甘い香りで満ちています。

取り出し口の下に袋を設置して、ペダルを踏むと、ザーッと精米したお米が落ちてきます。

精米してもまだ重い30㎏のお米。私は空袋を持っていって、半分ずつ袋に入れます。そうすると15㎏ずつになるので、腰の心配をすることなく余裕で持つことができます。

やはり精米したてのお米は格別です。子供たちも「あれ?お米変えた?」と聞いてきます。

この味が日常。そのありがたさ、贅沢さ。忘れないでいたいと思います。

 

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