写真後列左から:筒井浩司さん・澤田明久さん・森岡拓実さん
写真前列左から:池添篤さん・大石淳一さん・山中晴介さん・小笠原啓介さん
嶺北の木を使い土佐町の職人さんがベンチを作る「土佐町ベンチプロジェクト」。
ベンチを作ってくれたのは土佐町で暮らす20代から50代の職人さんたち。作業中、息がぴったりだった職人さんたちですが、普段は個人で仕事を請け負っていることがほとんど。チームでひとつの仕事をするのは今回のベンチの製作が初めてだったそうです。
40個のベンチが完成した後、7人の職人さんたちに話を聞きました。
7人の職人さんたちの中で一番の年上、襖屋さんである池添篤さんは、町の人たちに「げっちゃん」と呼ばれ慕われている兄貴のような存在。今回のベンチプロジェクトでは、土佐町建築業組合の長である池添さんが職人さんたちに声をかけ、7人のチームを作ってくれました。
この人と一緒にやりたいなという人に声かけた。この世代に頑張ってもらわんことには土佐町、嶺北の家は保てない。みんなでやって繋がりができていく。一緒にやっていかんことには生きていけんきね。子どもの世代、孫の世代が土佐町でどうやって生きていくか考えて繋いでいかないと。その思いをみんながわかってくれちゅうのが嬉しい。
池添さんは若い頃から「世間の理想ではなく僕の理想でやりたい」と先輩と喧嘩もしながら仕事をしてきたそうです。今、先輩と呼ばれる立場になり、どんな思いで現場を見つめているのでしょう。
どんな仕事でも基礎が大事。あの人に話をしてなかったとか、その人に話ができてなかったから文句が出たということにならないように、基礎の部分を大事にしていったら最後はうまくいくし、綺麗な仕事ができる。1人ずつへの配慮が着実に仕事に現れる
それは職人さんの世界に限らずどんなことにおいても欠かせない土台です。その積み重ねが周りの人との信頼関係を作り、それによって自分の場所もつくられるのだと感じます。
普段の仕事でも面白くない仕事でも、一人でやりよったら面白くない。でも何人かでやったらそれも面白くなる。ごじゃ(冗談を)言いながらでも、そうやって面白くない仕事を一生懸命やる。本当に面白くない仕事もあるんで!それを共感してくれる、共有してくれる人がいると仕事も楽しくなる。笑い飛ばせる
「僕はみんながやってくれると信じて頼んじゅうき!」と言いながらガハハと笑うげっちゃん。この池添さんの元、職人さんたちが集まってベンチが作られたのです。
今回のベンチ製作では、職人さん全員が口を揃えたようにこう言っていました。
「このベンチは晴介君がおらんとできなかった」
晴介君こと山中晴介さんは土佐町で唯一の建具職人。建具職人は家の中の仕切りである戸や襖、窓などを作る、精密さと細やかな配慮が求められる仕事です。
建具はちゃんと開け閉めできるのが当たり前。建具が入ってから3ヶ月で暖房や温度差で木が収縮したり反り出したりする。それを見越して、ミリ単位で木がどちらに反るかを見極めて作らんといかん
今回のベンチは川田康富さんが作ってくれたモデルを元に、山中さんが木を加工し、効率の良い段取りを考えてくれました。
山中さんは若い頃から左官や木工の仕事の経験を重ね、今は建具職人として、そして大工としてもさまざまな仕事を請け負っている山中さん。
自分のセンスで新しい建具をゼロから作ることができるき、自分のオリジナルを作れる喜びがある。“この現場はめっちゃ綺麗にできた、施主さんも喜んでくれちゅう!嬉しい!”って思う。でも…、作るまでめちゃくちゃ気を使う。それはすごいやちゃ!
山中さんは「建具はめっちゃ気を使う」「黙々と1人でやるから集中してすごい疲れる」と何度も繰り返し話していましたが、それは本音であり、職人としての誇りからくる言葉でもあるのだと思います。
自分のした仕事を評価してくれるのは施主さんの価値観だけやき。それが厳しいところ。自分でよしと思っても、イメージが違うと言われることもある。価値観の差があるきね。現場は“価値観=値段”の世界やき
「土佐町の建具職人は俺しかいない」
山中さんが自分に言い聞かせるように繰り返していたこの言葉。その事実への覚悟の元に生まれる仕事が、周りの職人さんからの信頼に繋がっていることが伝わってきます。
(「土佐町ベンチプロジェクト⑦職人さんの話」に続く)