長男に頼まれていたベッドを作った。
友人宅に泊まりに行ったとき、そこの家の子が使っているベッドに一目惚れしたらしい。それは、縁側の長押(なげし)を利用して板を渡し、布団が敷いてあった。いつも猫が気持ち良さそうに寝ていた。小さな空間は「わたしだけの場所」という感じで、いかにも子どもが好きそうだった。「うちにもあれ作って」と息子に言われたとき、これは父ちゃんの腕の見せ所と「よしやったるか!」と約束した。しかし、家に帰ってくると毎日の暮らしで、無くとも困らないベッド作りの優先順位は低く、気になりつつも時間が過ぎて行った。最初は毎日のように「ベッド作ろうよー」と言っていた長男も、そんなことはもう忘れてしまったかのようだった。このままではずっと作らなくなってしまう、約束をしたのにそれはいかんな、と時間を見つけては寸法を計ったり、材を切ったりして少しずつ作業を進めていった。
部屋の天井下についに完成したベッド(というより、寝床という言葉が似合う)は、忍者の隠し部屋のような、ドラえもんが寝る押入れのような感じになった。廃材を使って作ったので、板の厚さがまちまちだったり、見た目ボロかったりするが、気づいてないようなので触れないことにしよう。一畳程度の広さで、寝ている間に落ちないようにつっかえ棒を取り付けた。子どもたちに見せると、早速梯子を上って、遊びはじめた。畳に座布団を重ねクッションにして、ベッドから飛び降りるという、本来の目的とは違った使われ方だったが、楽しそうなのでまあいいか。
そのうち、息子は布団を敷き、好きなおもちゃを運び入れ、着々と自分の寝室化させていった。そして、ある晩「ボク、ベッドで寝るから」と宣言し、その日からベッドにひとりで寝るようになった。これまでずっと家族一緒に寝ていたから、寂しくなってすぐ戻ってくるだろう。高を括っていた僕の予想を裏切って、今のところ、問題なく毎晩ぐっすりと寝てる。
寝相の悪い彼がいない分、家族の布団は広々してる。僕らの寝床を巣立った息子に頼もしさを感じつつ、僕の胸にはなんとも言えない寂しさが残るのだった。