タラヤナ財団は、2003年に発足した 公益法人(Public Benefit Organization)。設立者は王女の母であるアシ・ドルジ・ワンモ・ワンチュク。その運営にはブータンの王族が深く関わっています。正式名はタラヤナ・ファウンデーション(Tarayana Foundation)ですが、日本では「タラヤナ財団」と呼ばれることが多いようです。
タラヤナ財団の活動は驚くほど多岐に渡りますが、その全ての活動の根本にある考え方は「国民総幸福度」。
経済的・物質的な豊かさを闇雲に追いかけることを目的にしない「幸福度」による社会、つまり国民総幸福社会(GNH:Gross National Happiness Society)の実現がタラヤナ財団の大きな目的であり、そのための実践の機関なのです。
*念のために付け加えておくと、国民総幸福度は「経済的・物質的な豊かさは必要ない」という考え方ではありません。むしろその逆で、「経済的な発展」を成し遂げながら、全体として国民の幸福度を上げていく。経済的な価値を優先し過ぎて、コミュニティや環境など人間の幸福のために必要な要素を壊すことがあってはならないという考え方です。
その理念は一旦横に置いておいて、タラヤナ財団の具体的な活動の内容を聞きました。
マイクロ・ファイナンス(Micro Finance)
「貧者の銀行」と呼ばれるマイクロ・ファイナンス。バングラデシュのグラミン銀行とムハマド・ユヌスが2006年にノーベル平和賞を受賞したことで世界的な注目を集めましたが、タラヤナ財団も2008年よりマイクロ・ファイナンスを行なっています。
マイクロ・ファイナンスの特徴は、特に貧困層の小さなビジネスを対象にしていること。仕事をする意欲があるにも関わらず何らかの問題があり貧困に苦しむ個人に対して、年率7%の条件で小口融資を行なっています。
これにより通常の銀行では借り入れができなかった小規模農家や職人などが、小規模ビジネスをスタートして維持できるようになりました。貧困層に向けて補助金などを「与える」のではなく、彼らが自活しビジネスを回していけるような手助けをするという意味で、マイクロ・ファイナンスは本来の意味での「貧困の解決」に近い手段として期待されています。
蛇足ですが、マイクロ・ファイナンスは通常の銀行の借り入れと比較して、返済率が圧倒的に高いそうです。理屈はわからないのですが、感覚的には理解できるような気がします。
家の建設 (Housing Improvement)
「家屋が最も重要な生活の基盤である」という考えのもと、タラヤナ財団は貧困地区の住環境を改善するプロジェクトを継続して行なっています。
現地調査を行い地域住民と財団本部をつなぐ橋渡し役として、現在13人の現地調査員(Field Officer)が現場で働いています。(その人数は全く足りていないので、近い将来には一県に一人の調査員がいることになるそうです)
その調査員が現地で聞き取り調査を行なった上で、家屋の状況に深刻な問題がある家庭を優先しながら、新たな家屋を建設するというもの。
その資金はタラヤナ財団が海外のファンドから調達しているそうです。タラヤナ財団とファンドが信頼関係を結び、長期的な視点に立ってタッグを組み進めているプロジェクト。
僕がタラヤナ財団を訪問した2019年2月は、2018年度のプロジェクトが完了し、資金提供者であるファンドに対してレポートを作成中というタイミングでした。
2018年度にはブータン全土で500軒の家を建設し、詳細な資金の使途をファンドにレポートする。その上でファンドから「公正で効果的なプロジェクト」と承認されれば、また来年度も500軒の家を建設するということです。
別の機会に、ブータンの家の建設現場を見ることがあったのですが、ブータンでは家の建設は親戚や隣近所が集まって行うのが一般的。
もちろんそこには指導的な立場で大工さんがいます。その現場には、土壁の専門家と木材の専門家の二人がいて、その二人が施主本人とその家族親戚を指導しながら建設していました。
その際、専門家以外のメンバーは、報酬の出る仕事というよりも「お互い様」といった感じで手伝いにきている。あっちの家を今年建てたので、来年はそっちの家を建てる、という順番でやっているという話を聞きました。
ですので、これは推測ですが建築資金というものはそれほど莫大なものではない。土壁の材料である土も現場の土を掘ってました。しかしそれも難しい貧困地帯に、きっかけとなる資金を提供して、現場では村の衆が集まりみんなで作っていくというやり方のようです。
基本的には財団やファンドから全てを与えるのではなく、「できることは自分たちで」。そしてそのきっかけとしての資金や人材を提供するという形です。
現在、現地調査員(Field Officer)が常駐している地域を指し示し説明してくれました。首都ティンプーのヘッドオフィスには 人のスタッフが働いており、加えて13人の現地調査員が地域で働いているのだそう。
「まだまだ人数が足りないので、特に地域調査員の増員に注力しています」
タラヤナ財団の話は少し長くなりそうなので、次回に続きます。