さっと茹でて、きゅっとしぼって、まな板の上にのせる。
菜の花は春の色。色鉛筆の黄緑と緑を重ねたようなこの色は、台所に春を告げる。
この菜の花は、和田地区に住んでいる和田さんが畑から摘んで、新聞に包んで持たせてくれたもの。
湯気のむこうに和田さんの暮らす風景が見える。
「とんとんとん・・・」菜の花を刻む。醤油、ごま、鰹節で合える。
春の台所は色鮮やか。
菜の花、小松菜、春菊、人参、ブロッコリー。冬の間育てていた白菜から採れる菜の花は、やわらかくて最高に美味しい。
次は小松菜をさっと茹でて刻む。塩をまぶしてごまをも加えると、春のふりかけ。
これはごはんに混ぜておにぎりにしよう。
春の台所に立つ。
裏山からの水が流れる音がする。
ウグイスのさえずりが聞こえる。
「そろそろぜんまい取りにきや」。
近所の人が言ったその言葉だけで、もうそわそわしてしまう。
春の台所は忙しい。
ぜんまい、イタドリ、ワラビ、たけのこ、たらの芽…。
山菜たちが順番にずらりと並び、食べてもらうのを待っているかのようで、うれしさ半分「お願いやき、ちょっと待ってて!」と言いたくなる。
ぜんまいをゆで、イタドリの皮をはぎ、ワラビに灰をふりかけ、茹でた筍を水につける。たらの芽はそのまま天ぷらに。
とにかく毎日、何かしらの山菜たちと向き合う日々。
きっとこの地のお母さんたちもそうだったに違いない。
春の声を聞いて、そわそわしながら、ちょっと焦ったりもしながら、せっせと春の仕事をしてきたんだ。
お母さんたちは、台所でどんな風景を見てきたんだろう。
歴代のお母さんたちの気配を感じながら、今日のおかずの出来上がり。