「歴史嫌い!知らんでも困らんし…」。26年ぶりに教壇に復帰した私に、数人の女子から容赦ないダメ出しが出た。赴任直後は少々ボケ気味だったが、これで一気にヤル気スイッチがオンになった。
言うまでもないが、「歴史嫌い」の生徒に対する特効薬はない。色々思案したが、せっかく博物館にいたのだから、オリジナルのネタを授業に取り入れることにした。指導書どおりにやってもマンネリになるだけだし、何より教えている自分が面白くない…。
「同じ武士なのに源平合戦の平氏って何でこんなに弱いが?」「源頼朝(みなもとのよりとも)には、「の」を付けるのに、織田信長には何で「の」を付けて読まんが?」「金閣寺という寺はないのに何でみんなそう呼ぶが?」「徳川家の将軍の名前に「家」が付く人と付かない人がいるのは何でやろ?」「何で?」「何で?」のシャワーを毎時間浴びせてみる。
できる限り小道具も使う。例えば、漫画「サムライ先生」や「ベルサイユのばら」の一場面を拡大して示し、主人公の置かれた状況を発表させたり、火縄銃や頭形兜(ずなりかぶと)の実物を町の民具資料館から借りてきて、各部位の形状にどんな意味があるのかを考えさせる。
班活動では、江戸時代の村絵図(土佐藩内の実物のコピー)を示し、庄屋と百姓の家の大きさを比べさせたり、村内の川に橋がかけられていない理由をまとめさせる。また、土佐藩の「参勤交代絵巻(写真)」に描かれている鷹や、袴を付けている武士といない武士などに注目させ、討論させるetc.。
こうした授業では、歴史の好き、嫌いにかかわらず大概の生徒がノってくる。教科書に答えがないからこそ面白いのだ。普段半分寝ている生徒でも、思いがけない発言をし、その日の主役になる。実は、この手法は学芸員時代の展示解説やワークショップで培ったもの。短い時間でお客の心を掴むには、初発の1分、いや10秒以内に何を投げかけるかで勝負が決まる。面白くなければ誰もいなくなってしまうのだから…。
歴史の授業に自信がなく、マンネリに悩んでいる社会科の先生方には、是非博物館のワークショップなどへの参加をお勧めしたい。すぐ使えそうな授業ネタがゴロゴロ転がっていて、楽しいこと請け合いだ。もちろん、こんな授業は毎時間できないし、やったからといってテストの平均点が上がる訳でもない。だが、確実に変化は起きる。
一年が経ったある日、冒頭で触れた女子の一人が、「せんせー、歴史最近マシになってきたで…」と笑顔で話しかけてきた。案外「歴史嫌い」の生徒ほど「歴史好き」に大化けすることがある。私は、ある意味「歴史嫌い」の生徒に鍛えられ、それが喜びにつながっていたのだとしみじみ今思う。