「天、共に在り」 中村哲 NHK出版
「暴力と虚偽で目先の利を守る時代は自滅しようとしている。今ほど切実に、自然と人間との関係が問い直された時はなかった。決して希望なき時代ではない。大地を離れた人為の業に欺かれず、与えられた恵みを見出す努力が必要な時なのだ。」
12月17日、高知市内である映画の上映が1日限定でありました。
それは、「荒野に希望の灯をともす」(主催:ゴトゴトシネマ)。アフガニスタンで水路を作る日本人医師・中村哲さんのドキュメンタリーでした。
感想をそのまま伝えようとすると、とてもこの欄では読んでもらえないくらい冗長なものになってしまいそうなので苦渋の割愛をしますが、開始10分を過ぎたあたりから涙が止まらなくなりました。
自分は中村哲さんの持つ何に心がこれほど動かされたのか。
ひとつはその「姿」。飾り気や虚栄心や承認欲求的な力学を全く感じさせないその姿。そして机の上でそれらしいことを言っているだけの人間には身に纏うことができないであろう、身体を張った実践を根拠にした中村哲という存在の確かさ。
こうして賢しらに論評めいたことを書こうとしている自分もちょっと恥ずかしくなるくらい。なのでこれ以上わかったふうなことを書くのはやめておきます。
確かに言えるのは、その映画には、心のとても深い部分に触れてくる力があったと、僕には感じられたということ。
ネットやSNS全盛のこの世界で、責任を伴わずに賢そうに聞こえる言説が溢れるこの世界で、それでもやはり土台としてあるべきは実践であり行動であるということ。
本の紹介ではなくて映画の紹介のような文になってしまいましたが、この本はその中村哲さんが書いたもので、全編を通じて名文と言えるような文章で溢れていますが、それもまた、「文章が上手」というようなテクニック論的な意味ではなく、著者が身体を張った実践の中で獲得してきた言葉であるからこそ、実体を伴った生きた言葉と感じられることが理由なのでしょう。