一年で最も暑い7月下旬から8月。早朝から蝉の鳴き声と共に草刈機の音が響く。
ウィィィィン、ウィィィィン、ウィィィィン…。
夏の間は、遠くで反響するこの音で目が覚める。
夏の草は伸びる。大いに伸びる。つい先日刈ったばかりなのに、数日後には生き生き青々とした草が新たに伸びていてがっくりする。農家の方たちの苦労はいかばかりか。草を刈るたび、そう思う。
クロ
一方、その草は貴重な肥料にもなる。
土佐町の田の畦には、草でできたテントのような「三角形」が立っている。打ち込まれた棒を真ん中に、いくつもの草の束が巻き付けられてできており「クロ」と呼ばれている。
一年で一番暑い時期に刈った草でできた「クロ」は、昔からこの土地で使われてきた肥料のひとつだ。冬に、この「クロ」の束をほどいて田に入れ、田をたたく(耕す)ことで豊かなつよい土壌を作る。
時代の変化や化学肥料の普及とともに「クロ」を積む人は少なくなったが、今もこの「クロ」を肥料とし、お米を作り続けている人たちがいる。
クロを積む
土佐町地蔵寺地区の西村卓士さんと田岡袈裟幸さん。この地域で生まれ育ち、お米を作り、この土地の棚田を守り続けている。
標高約350メートルの場所に広がる棚田には、二人が積んだ「クロ」があちこちに見え、田への道に沿って作られた水路には「飲んでも構わん」ほど綺麗な山水が流れる。
西村さんは夏の間、朝4時半に起床。6時には草を刈り、「クロ」を積む。
「草を長いことおいたら、大きくなって刈るのがしんどい。でも刈るのが早すぎてもまた次が生えてくる。そうすると、また草を刈りにいかないといけない。どのタイミングで刈るか、草の状態を見ながら決める」
ただ草を刈ればいいという話ではない。どう刈ったら草を束ねやすいか、刈る向きや長さを考えながら刈るという。「草を刈るのはこの人の方が丁寧で上手いんじゃ」と西村さん。そのそばで、奥さまの佐枝子さんが笑う。
「クロ」を一つ積むためには、14~15束の草が必要だ。
写真の岸(田と田の間の斜面)に生えている草が、約1束分の量。ということは、この量をあと14回は刈り、束ねる必要がある。
毎年、西村さんが積むクロは10個。少なくとも150束分の草が必要ということだ。これが西村さんの田、約3反(約3,000㎡)分の肥料となる。
「案外大変なのよ!」と笑い飛ばす西村さんの額には汗が滲む。
「クロを積む 2」に続く