「みんなでこんにゃくづくり」 菊池日出夫 福音館書店
土佐町で暮らし始めた頃、近所のおばあちゃんが家にやってきて「こんにゃく作ったき、食べや」とビニール袋を手渡してくれた。袋の中には、ソフトボール位の大きさの丸いものが幾つも入っていてずっしり重く、ほかほかと温かい。
これがこんにゃく!丸い!
それまでこんにゃくといえば四角い板こんにゃくしか知らなかった。さらに、おばあちゃんは「そのまま薄く切って、刺身みたいにしょうゆをちょこっとつけて食べてみや」という。
刺身!
こんにゃくは煮物にしたり炒めたり、火を入れて食べるものだと思っていた。何と生で食べられるとは!その日の夕ごはんに食べたこんにゃくの刺身は絶品で、子供たちの箸も止まらない。あっという間に平らげた。
絵本「みんなでこんにゃくづくり」は、おじいちゃんやおばあちゃんとこんにゃく芋を育て、みんなでこんにゃくを作るお話だ。土佐町で暮らし始める前から、どこか遠い所の話だと思いながらページをめくって眺めていた「こんにゃくづくり」。それをリアルにしている人が現れたのはかなりの衝撃だった。
後日、おばあちゃんがこんにゃくを作るところを見せてもらった。掘っておいた芋をぐつぐつ茹でて皮を剥き、ドロドロになるまでミキサーにかける。浅木の灰を水と混ぜ、布で漉した灰汁を入れると立ち現れるこんにゃくの香り。混ぜ続けると次第に固まってくる。まるで化学実験だ。杉やヒノキの灰汁では固まらないと聞いて、この地の人たちの試行錯誤が見えるようだった。
土が足元にある暮らしは実にゆたかだ。身の回りにあるものを工夫して使って何でも作る。手間も時間もかかるが、この地で引き継がれてきた知恵に、この場所で生きるという強い意志を感じる。