8月下旬のある日、近所の上田覚さんが田んぼの脇で仕事をしていた。
親しみを込めていつも私は、上田のおじいちゃん、と呼んでいる。
挨拶すると「スイカ、もう少ししたらいい大きさになるき、取りにおいで」と言った。
「来週くらいがちょうどえいと思う」。
声をかけようと思ちょったき、よかった、と笑うおじいちゃん。
こういった出来事に今まで何度も救われて支えられてきたなあと思う。
来週の楽しみがまたひとつ増えた。
「来週」、おじいちゃんは電話をかけてきた。
「スイカ、取りに来や〜」
夕方子どもたちとおじいちゃんの家を訪ねると、玄関前の池では四角いプラスチックのケースに入った大きなスイカが池に冷やしてあった。無理やり入れたようにケースはパンパンではみ出しそうになっている。
その横を赤や白の鯉たちが泳いでいる風景がなんともいい。
おじいちゃんと一緒にケースを持ち上げて水からあげる。
ケースからなかなか出でこないスイカ。押したり引っ張ったりしてなんとか出す。
スイカの表面はつるりとひんやりして触ると手のひらにじんわりと冷たい。
おばあちゃんがまな板と包丁を持って来てくれた。
息子が切ろうとするけれど、なかなか刃が中身まで届かない。
見かねたおばあちゃんが「おばあちゃんが切っちゃお!」と交代してくれた。
「ザク、ザク、ザク、って音がしゆう」
ぱかっと開いたスイカは赤色だった。もう十分に育っていましたよ、待ってましたよ、と言っているみたいに中身が詰まっていて、もうはち切れんばかり。というよりももうはち切れていた。
ザック、ザック、ザック。
おばあちゃんが大胆に、大ぶりに切ってくれた。
「私らあが子どもん時は、こんなスイカはなかったけね。」とおばあちゃん。
ガブリ!!
かぶりつくと、めっちゃ甘い!
ポタポタと汁がたれてくる。
口の周りも手もスイカの汁でびちゃびちゃになる。
もう夕ごはんは入らないんじゃないかと思うほど食べた。
「さ、畑にもあるぞ〜。いこか!」
おじいちゃんと畑へ向かった。
おじいちゃんは肩で息をしながら畑への坂道を登っていく。途中で立ち止まって振り返り、私たちに「先行って」と言う。前はこんなことはなかった。おじいちゃんは春頃から少し体調を崩し、今は起き上がって少しずつ仕事ができるようになっていた。「胸が苦しいんよ」と小さな声で言った。
ホースを通って流れてくる山からのゆたかな水。その水を受け止めている桶から水は溢れ出し水路へと流れていく。受け止められて、流れて、またきっといつか戻ってくるのだ。
畑にある鶏小屋へ行き、さっき食べたスイカの皮やタネを鶏にあげると争うようにしてついばむ。
スイカに残っていた果汁とタネがはねる。
鶏が食べたこのスイカが卵に変わるのだ。(この鶏の卵をおじいちゃんが育てたごはんにかけて食べる「卵かけごはん」は最高だ!)
スイカを入れるために開けた戸がそのままでも鶏は逃げることがない。そのくらい夢中になって食べている。
こうやって、循環していくのだなと思う。
(後編へ続く)