11月。山里の道ぞいや家の庭先にころんとした丸い「黄色」が加わります。その風景は、まるで隠れていた小さな星たちが姿を現したように見えます。
11月の初旬、土佐町の浪越美恵さんからお電話をいただきました。
「ゆずの玉、いる?」
玉?たま?タマ?玉って何だろう?
「うちは今年のゆずをもう絞ったんやけど、まだたくさん残っているの。よかったらいるかしら?」
もちろん!
ということで、浪越さんのおうちに伺いました。
大正時代に建てられたというご自宅。台所の入り口に一歩足を踏み入れた瞬間から、もうその空間はゆずの香りでいっぱいになっていました。
絞るのは、ご主人の泰さんの仕事です。
半分に切ったゆずを入れ、ハンドルをおろします。ぎゅーっと絞った果汁をコップにためていきます。
「この道具はおばあちゃんが使いよった。30年といわんかな?30年以上使ってもびくともしない」
ハンドルや本体は分解することができ、全部を洗うことができます。
絞った果汁を濾しながら、瓶に入れて保存します。高知県では絞った果汁のことを「柚子酢(ゆのす)」といいます。
「めんつゆに柚子酢を入れると、美味しいポン酢ができるよ。安いし、自分好みの味ができる!」と泰さん。これからの季節、鍋や湯豆腐を作った時に重宝しそうです。
「ざんざん洗うて洗うて、ゆるゆるがなくなるまでやって乾燥させた」というゆずの種。25度の焼酎につけると、化粧水ができます。美白効果があるそう!
柚子酢はお寿司やドレッシング、皮はジャムに。冬至にはゆずを入れたお風呂に入る。ゆずには無駄なものがひとつもない、まさに「玉」ごと使えます。
絞った果汁は瓶に入れ、涼しいところに保存します。
土佐町の多くの人たちは、毎年この時期に一年分のゆずを絞ります。一年間という暮らしのなかに、その季節ならでの仕事がある。それは、とてもゆたかなことです。
お土産にゆずの玉をどっさりいただきました。早速絞って、小さなペットボトルに入れ、何本か冷凍しました。「こうしておくと味が変わらずに一年間使える」と、以前別の方から教えてもらいました。使いたい時に解凍します.
冷凍庫に並んだ柚子酢を見るたび、浪越さんの顔を思い出します。そして今年一年、柚子酢は大丈夫だと思えるのです。その安心感たるや。なんて贅沢なのでしょう。
浪越さん、ありがとうございました!