「シティーズ オブ ザ レッド ナイト」 ウィリアム S バロウズ 飯田隆昭(訳) 思潮社
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山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。
人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。
土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?
みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!
(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)
土佐町に「上ノ越(うえのこし)」という集落がある。
石原から黒丸に向かう道の、ちょうど中間点あたりに位置している。
集落というのは昔の話で、今ここには英子(てるこ)さんという92歳のおばあちゃんがひとり住むだけになっている。
2016年の夏の終わりに土佐町に来てから僕は、町内の眺めの良い場所を毎日のように探して周った。撮影のためだ。
気に入った場所がいくつもできて、そんなところには時間を変えて何度も訪れたり、季節が変わるとまた訪れるというようなことを繰り返していた。
英子さんの家の前は僕にとってちょうどそんな感じで、玄関を出るとすぐ目の前には遠くまで山々が連なり、秋から冬にかけては雲海が濃く立ち込める。腰を据えて三脚を立ててシャッターを押したくなるような土地だった。
僕は度々英子さんの家の前をお借りして、刻々と変わる風景を写真に収めた。英子さんはその度にイヤな顔一つ見せずに、どうぞどうぞとニコニコ軒先を貸してくれた。
そうやって僕は風景を撮りながらも、4001プロジェクト、「土佐町の全員を写真に撮る」というこの計画のために英子さんに、写真を撮らせてもらっていいですか?とお願いしようと何度か思い、その度に「もう少し仲良くなってから」「急に言っても驚かせてしまうかも」と心の中で思い、ただなんとなく先延ばしにしてしまっていた。
2月に、訃報を聞いた。
黒丸のりょうさんの車に乗っていた時で、英子さんは先月亡くなったんだよ、と聞いた。息子さんが町に住んでいて毎日のように通ってくるんだが、そうやって息子さんが訪れた時にはすでに亡くなっていたらしいんだ、と。
英子さんは上ノ越からいなくなってしまった。
英子さんがいなくなった上ノ越は、今はもう誰も住んでいない。
僕は英子さんを撮影できなかった。
それがただ悲しい。
石川拓也