三月終わりのころの話。
8歳の息子が友達を連れ立って、高知市内に遊びに行くことになった。
彼にとって、子どもだけの遠出は生まれてはじめてのこと。
ある日長女グループが自分たちで計画を立てているのを見て、僕も連れて行ってほしいと願った。が、「女の子たちだけで行きたいから」という理由で断られたので、母ちゃんに泣きつき、男子旅プロジェクトがスタートした。
行き先は、わんぱーくこうち。
県内では有名な公園で、小規模ながら動物園と遊園地を併設している。僕らの住む地域からはバスと電車を乗り継いで片道約二時間掛かる。
まず実行日とメンバー決定して、乗り物の時刻と料金調べる。お小遣いをいくら持っていくかなど、綿密な計画が彼らの間で練られていった。良く言えば細かいことは気にしない性格の息子は、何回確認しても、紙に書いたスケジュールを覚えられない。そんなことで無事に旅は遂行されるのだろうか。いろいろ手を尽くした親が最後に言ったアドバイスは、「わからないことがあったら、周りの人に聞きなさい!」。高知県民の人情の厚さに頼るのが一番確実と考えたからだ。
二年生から五年生、ドキドキの男子旅。数日後に県外へ引っ越してしまう同級生も飛び入り参加することになり、総勢四人の記念旅行となった。
翌朝、集合場所であるバス停に乗るべき便が到着した。よしさあ出発!というとき、ひとりが漫画を読み耽っていてあわや置いて行かれそうになり、見送りの親たちは息子たちの一日を案じた。
夕方の到着時間。保護者たちの心配をよそに、男子たちは笑顔で帰りのバスから降りてきた。まずは怪我もなく無事に戻ってきてくれたことに感謝し、我が子と友だちの成長に胸が熱くなった。
冒険から生還した勇者たちは、我が町に到着して緊張の糸が切れたのか、旅の話を一斉に喋りはじめた。道中の様子、遊園地のアトラクションが如何に刺激的だったか、お小遣いで何を買ったか。皆我先にと話すものだから、聞く方は大変。でも、今日という日が彼らにとってどれほど素晴らしかったのかよく分かった。ちなみに、うちの息子はアイスクリームの三段重ねを二つも食べたと得意そうに話していた。普段うちでそんな暴挙は許されていないが、それも親がいない旅の醍醐味だろう。使ったお金より彼のお腹が心配だけど。
そんな彼らの武勇伝の中で、印象深かったのは、帰りのバスに乗り遅れた話。
帰りのルートは、わんぱーく→高知駅→土佐町とバスを乗り継いで戻ってくる予定だった。しかし、わんぱーくでバス停の場所を間違っていたのか、運転手が彼らを見落としたのか、乗るべきバスが出発してしまったらしいという事態が起こった。どうするどうする、次のバスを待っていたのでは約束の到着時間に間に合わない。しばらくの問答ののち、グループの最年長であり乗り物好きなW君は、この路線バスは高知駅を往復する路面電車と同じ道を走っているということを、行きのバスの車窓から眺めて覚えていた。だからそのルートを辿っていけば駅に着くはずだと主張する。かくして一行はその線路を探し当て、駅まで歩き、予定していた土佐町行きのバスに乗り込むことができたという。その話を聞いたとき、僕の頭の中にあの映画の一場面が鮮明に飛び込んできた。ストーリはだいぶ違うけれど、そして実際には線路上を歩いたわけではなく歩道を歩くという交通ルールを守った正しい方法だったけれど、どちらも少年たちの大冒険であったことに変わりはない。
友人たちに別れを言い、車に乗り込んだ息子。少し気持ちが落ち着いたのか旅の疲れが出たのか、シートに身を沈めてじっと外の景色を眺めてる。運転する僕の脳内では、Ben E. Kingの曲が繰り返し流れていた。